川の向こうにある山沿いに、ポツンと建っている家が見えた。
千冬の家だ。
ここらへんは電灯もろくに立っていないから、千冬の家は灯台のように明るい。
俺ん家は住宅地の中にある。
だから家もたくさんあるし、何なら、自販機だって近くにある。
でも千冬の家は別だ。
目と鼻の先と言っても、住宅地を抜けた先の荒野にあるから、周りに何も無い。
川のせせらぎも、雑木林の揺れる風の音も、耳を澄ませれば、すぐ近くに聴こえる。
「なあ」
「あん?」
不思議な感じがした。
彼女が誰であれ、こうして“誰か”と、この道を歩いていることが。
「…いや、何もない」
家に着いて、さや姉が出迎えてくれた。
さっきの電話は何だったのかと問われたが、うまく答えられなかった。
代わりに千冬が説明してくれて、その場はことなきを得た。
とは言っても、さや姉に聞きたいことが山ほどあった。
病院のこと、千冬のこと。
何から聞けばいいかもわからないくらい。
「とりあえず部屋行くで!」
無理やり手を引っ張られ、千冬の部屋に直行する。
バタンッ!
と、勢いよく閉まるドア。
電気をつけ、カーテンを閉めた。
「着席せぇ!」
「お、おう」
床に座らされ、待機させられた。
千冬は何かを漁ってるようだった。
机の中に本棚、クローゼットの中まで。
正座しながら、部屋の中をぐるっと見渡した。
懐かしい、彼女の部屋を。
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