雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第45話

公開日時: 2023年3月2日(木) 22:44
文字数:605


 女は立ち上がって、小指を立ててきた。


 ありふれたポーズだ。


 世界の理なんてお構いなしの、向こう見ずな顔。


 そのあとに続いた、古臭いセリフ。



 「指切りゲンマン」



 急に何を…?


 そう思いながら首を傾げると、女は言った。



 「頑張るって、約束」



 …訳がわからない


 けど、自然と手が動いた。


 女の小指と絡み合う。


 細くて、柔らかい。


 キュッと握った先で、グイッと力を入れられた。


 「嘘つくなよ」って、強い口調で言われ。



 「…お、おう」



 それからしばらく千冬のそばにいた。


 窓の外を見ると、空が少しずつ暗くなり始めていた。


 ポートタワーについた明かり。


 関西空港行きの、飛行機の音。




 ◇◇◇




 「寄りたい場所がある」



 病院を後にした後、俺たちは国道線沿いを走っていた。


 建物にはポツポツと明かりが灯り初め、昼間にはなかった涼しさが、街の隙間から近づいてきた。


 古びた車屋の看板に、カーブミラー越しのヘッドライト。


 段差のできた道が、時々自転車を揺らし。



 「どこ?」



 また、キャッチボールをするとか言い出すんじゃないだろうな?


 断固拒否するつもりだったが、どうやら違うらしい。


 板宿を過ぎたあたりで、山沿いを走った。


 道なりのすぐ下に広がる田園風景。


 都心部の高層ビル群が、遠巻きに見えた。


 時々、俺も通ったことがある。


 まっすぐ家の近くまで行けるし、車とすれ違うこともないからだ。


 長閑といえば長閑なこの道は、街の風景の一部にしては寂しかった。


 地元民でもなけりゃ、わざわざ通らないだろうし。

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