………
……………………
……………………い
…………………………おいって!
後ろで何か言っている。
声は届いていた。
それが、俺に対して向けられている言葉であることも。
肩を叩かれていることも。
だけど、「時間」は停止していた。
全てが凝固したかのように止まっていた。
「流れ」そのものが失われていた。
そう形容するより、他になかった。
カーテンを開いて、その先に広がる確かな景色を、——見て。
そこにいたのは、“千冬”じゃなかった。
——千冬
…じゃない?
…いや、きっとそうだ。
目の前にいるのは千冬じゃない。
でも、…なんで?
ベットの上に横たわっていたのは、知らない人だった。
千冬と同じように鼻に栄養チューブを付けられていて、寝たきりになっている。
一目でわかった。
“千冬じゃない”と。
それぐらい年老いていて、見た目は80歳から90歳くらいのおばあちゃんだった。
部屋を間違えたのかと思い、外に出た。
「番号」は合っている。
フロアの階層も、病院だってそうだ。
廊下を歩いている看護婦に尋ねた。
この部屋にいた女の子は?
どこにいったんですか?
前のめりになり過ぎていたせいか、看護婦さんはかなり困った感じだったけど、ステーションで問い合わせてくれて、色々調べてくれた。
だけどあの部屋には、ずっとあの人がいるみたいだった。
「千冬」っていう入院患者も、その履歴も、どこにも残っていなかった。
よくお世話してくれていたチーフナースの渡辺さんを見かけて、いてもたってもいられずに駆け寄った。
千冬はどこに行ったんですか?!
たまらずにそう聞くと、首を横に振られた。
それどころか、俺のことを知らないみたいだった。
目を合わせるなり、「誰?」って、冷たく言われて…
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