冷房の効いた、静かな病室。
机に立てかけられた、子供の頃の写真。
神戸市中央区の街並みが、地上12階から見下ろせた。
時々お見舞いに来る人たちの手紙が、机の上に置かれていて。
「なにしとんや。はよこっち来い」
部屋の隅でボーッとしていると、叱りつけるように女は言った。
説教くさいなと思いながら近づく。
カーテンの向こうで千冬の顔が見えた。
「いつ以来や?」
「は?」
「ここに来たの」
いつ以来だったっけ。
正月が明けて、確か雪が降ってた。
この病院を最後に訪れたのは。
「この臆病者が」
「臆病者…?誰が?」
「あんたしかおらんやろ」
そう言われた理由も、女の怒った表情も、全部わかる気がした。
でも、だからなんだ?とも思った。
ここに来たって彼女には会えない。
それをわかってた。
だから…
「千冬は、あんたのことを待っとるんやで?」
俺のことを、…待ってる?
ハッ
笑わせんなよ。
アイツの意識は、もうここにはいないんだ。
医者から聞いた。
“もう目を覚ますことはありません”って。
自分でも調べたんだ。
千冬が今、どんな状態か。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!