車輪の周りを飛ぶ火花。
小刻みに揺れていたはずのレール。
女はその瀬戸際に立ち、全ての時間の向こうで憮然と立ち止まったままだった。
あとほんの少しでぶつかりそうだった電車の機体の真正面に立ち、目の前まで接近しているその金属の表面をやさしく撫でるように、指先で触れた。
0コンマ1の距離だった。
電車までの距離は。
そして、こっちを見た。
「夢やないで?」
…夢じゃない?
どうしてそんな言葉を吐かれたのかも、ましてや、どうしてこんな状況に陥ってるのかも、わからなかった。
理解…できない
脳みその中で爆発的に増えていく、鉤括弧付きの疑問符。
追いつけなかった。
…いや、そもそも、なんだこれは
…なにが、起こってる?
なんで、…全部止まってるんだ?
なんで、電車が動いてないんだ?
世界で、女だけが動いていた。
写真の中の人間が動くように、固まった景色の中を滑らかに動く。
何から手をつけていいかわからないほど、頭の中が逼迫してた。
だってあり得ないだろ、…こんなの
呆然としていると、女が近づいてきた。
ゆっくり遮断機の下を潜り、宙に止まったままの雨粒を気にすることもなく、歩いてきて。
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