女がどうして野球をやってるかを、深く尋ねたことはない。
興味がないと言えば興味がないし、好きにすればいいとも思うから。
でも、ブルペンに立つ女の投球を見ると、どうしても、興味を持たずにはいられなかった。
球だけ見れば、県大会でもそれなりの活躍ができるくらいのレベルだ。
しかもまだ高1。
もしも男として生まれてきてたら…
そう考えると、すごくもったいない気がした。
「なあ」
「あん?」
「なんで野球やっとん?」
単純に聞いた。
深い理由も、特別な感情もない。
ただ、尋ねた。
「明日、世界が滅ぶから」
…また言ってる
誰がそんなこと信じるかっつーの。
“世界が滅ぶ”って正気かよ…
悪りぃけど、信じられねー
話のつながりもよくわからんし。
「昔、この街で地震があったやろ?」
「…え、ああ…」
『地震』
その言葉の意味はすぐにわかった。
深く考える必要もないほど。
この地域に住む人は、多分、全員知ってる。
子供の時から、学校でもテレビでも、よく話題に上がっていたからだ。
おかんからもよく聞いた。
親戚のおじさんやおばさんからも。
俺が生まれるよりも少し前に、大きな地震があったことを。
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