「こんなこと冗談で普通言わんやろ?冗談抜きで記憶喪失なんや。多分、昨日頭打ったせいで…」
頭打ったの!?と、授業中にも関わらず彼女は大声を出した。
一斉に他の生徒がこっちを向く。
彼女は顔を赤らめた。
それに釣られて俺も。
千冬はびっくりしたようにまじまじこっちを見てたが、すぐに前を向いた。
他の生地たちも同様だ。
先生は先生で、一瞬こっちを睨んだようだったが、静かにしなさいというジェスチャーを交えながら、話を再開した。
肩身を狭くしたように丸く縮こまった彼女は、俺の頭に視線を向けながら、小声で聞いてきた。
「大丈夫なの?」と。
“頭打った”っていうのはもちろん嘘だ。
でも、記憶喪失のことを信じてもらうには、何か関連性があるものがないといけない。
昨日それを学んだ。
バカ正直に“目が覚めたら世界が変わってた”なんて、誰も信じない。
だったらいっそ信憑性のある話に仕立て上げて、少しでも信じやすくした方がいい。
ありきたりかもしれないが、頭を打ったって言えばなんとなく伝わるだろう。
…あ、でも、傷とか無いから怪しいかな
「体調悪いのも多分、そのせい」
「何しとって頭打ったん??」
「階段から落ちたんや」
「階段!?」
申し訳ないくらいに良いリアクションをする。
心配してくれてるみたいだった。
俺だったら絶対信じないけどな…
こんな話。
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