雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第344話

公開日時: 2023年10月4日(水) 15:59
文字数:482



 その“感触”は、不意をついたようにさっと、意識の片隅を抜けていった。


 何かが触れたにしては軽く、優しかった。


 まるで、雨粒が落ちてきた時のような、そんな感覚が——




 「未来で、また会おう」




 目を開けると、そこには女がいた。


 さっきまでの冷たい目が嘘みたいに、温かった。


 胸の上に添えた彼女の手が、シャツのシワを作る。


 霞むくらいの吐息と、視線。


 長い髪が、シートの上に被さっていた。


 顔を上げればぶつかってしまいそうな、近い距離で。




 「…未来?」

 



 胸の上に添えていた手を離し、「さ、行こう」と言う。


 俺は起き上がろうとした。


 だけど——


 


 ポッドの横にある操作盤から、スイッチを押す。


 それと同時に、ポッドの蓋が閉まった。


 俺は動揺して、何も考えられずにいた。


 雨が落ちてきた。


 そう思いながら、その感触の残る頬を、指先で確かめる。



 …アイツ、今…



 何が起こったのか


 それを追いかけようと、意識が滞ったままだった。


 目は点になり、記憶が覚束ない。





 だけど、わかったんだ。



 今にも消えかけそうな僅かな感触の下で、アイツが近くにいたこと。


 頬に触れたその温もりが、——形が、透けてしまいそうなほど、柔らかかったってことが。





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