その“感触”は、不意をついたようにさっと、意識の片隅を抜けていった。
何かが触れたにしては軽く、優しかった。
まるで、雨粒が落ちてきた時のような、そんな感覚が——
「未来で、また会おう」
目を開けると、そこには女がいた。
さっきまでの冷たい目が嘘みたいに、温かった。
胸の上に添えた彼女の手が、シャツのシワを作る。
霞むくらいの吐息と、視線。
長い髪が、シートの上に被さっていた。
顔を上げればぶつかってしまいそうな、近い距離で。
「…未来?」
胸の上に添えていた手を離し、「さ、行こう」と言う。
俺は起き上がろうとした。
だけど——
ポッドの横にある操作盤から、スイッチを押す。
それと同時に、ポッドの蓋が閉まった。
俺は動揺して、何も考えられずにいた。
雨が落ちてきた。
そう思いながら、その感触の残る頬を、指先で確かめる。
…アイツ、今…
何が起こったのか
それを追いかけようと、意識が滞ったままだった。
目は点になり、記憶が覚束ない。
だけど、わかったんだ。
今にも消えかけそうな僅かな感触の下で、アイツが近くにいたこと。
頬に触れたその温もりが、——形が、透けてしまいそうなほど、柔らかかったってことが。
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