「なあ、ちょっと用事があるんやけど」
おかんの店に取りに行くものがある。
カバンの中に無いんだ。
財布が。
「部屋には?」
「無い。昨日帰りに寄ったんや。自販機でジュース買ったのは覚えとるから、多分あそこやろ」
おかんにはラインを送ってるが、既読がつかないから行ったほうが早い。
通り道だし、寄るだけ寄らせて?
「ちゃんと探したん?」
「探した」
「あ、そうや。寄るんならおばさんに用がある」
「おかんに?」
「うん」
用って?
千冬とおかんは仲が良い。
友達かよっていうくらい。
仲が良いのは昔からだったが、こっちにきてからはちょっと印象が違う。
昔はまだ、「親子」みたいな関係だった。
千冬には母親がいないし、おかんが母親代わりって感じで、よく晩メシとか買い物とかに連れて行ったりしてた。
野球の試合じゃ、実の息子より声援を送ってて。
なんでかは聞いてなかった。
想像はしてなかったけど、普通にあり得るのかなって思って。
この前なんか部活終わりに家に来て、2人でどっかに行ってたんだ。
買いたい服があるとかって言って。
おかんを誘っても今時のファッションなんかわかんねーぞ?
大体あの人はラフな格好しかしねーし、基本仕事着しか着てない。
アドバイスなんてくれないと思う。
逆に、教えてあげて欲しいくらいなのに。
「あそこのローソンってあったっけ?自転車の空気入れ」
「あそこって?」
「交差点のとこ。商店街の」
いや、あそこはなくね?
エアーステーションのことだろ?
あんなもん一部の店舗にしか無いぞ。
「チェッ」
「空気ないんか?」
「そうなんよ。そろそろ入れとかんといけんのやが」
中学の時はいつも学校で入れてたみたいなんだが、神戸高校にはそんな便利なものがなかった。
他にある場所っつったら駅かホームセンター?
おかんのとこで入れたら?
「お店にあるん?」
「エアーステーションは無いけど、手動タイプならあるで」
「ほんま!?助かった!」
多分あった気がするけど。
俺のも入れとこうかな。
どうせすぐ抜けるし。
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