「私か?私は、世界一のピッチャーになる女や」
あどけない顔。
自信に満ち溢れた声。
後ろ髪が軽やかに動いて、ステップを踏んでいくかのような柔らかい足取り。
足早に階段を登る音が、タン、タンッと、すぐ近くに聞こえた。
それは、“懐かしい”と言えば、すごく懐かしい感覚だった。
「…世界…?」
その“感覚”が近くにあるのを、どうしても引き止めずにはいられなかった。
足が止まり、見上げた視線。
俺は彼女を見たんだ。
聞こえてきたその言葉に、振り向くように。
「何?」
ずっと忘れていた感覚が、すぐ目の前にあった。
でも同時に、そんなはずはないと思った。
目の前にいる女子高生が、彼女なわけがない。
…そんなことは、絶対にありえない。
何かの思い過ごしに違いない。
——と。
「…名前は?」
もしも世界が違っていたら
そう思うことが、時々あった。
夜になって眠る時、朝起きて、カーテンを開ける時。
日常の、生活の、——色んなところで、バカみたいに想像してた。
アイツが隣にいる世界を。
どうすれば会える?
って、いつも考えてた。
昨日もだ。
学校に行く道すがら、海を見るたびに。
蝉の鳴き声が、耳のそばを掠めるたびに。
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