全くイメージができない。
別の世界
別の人生…
そのことを頭の中で考えることはできても、つい、疑問に思ってしまう。
“別”って言ったって同じ人間なんだ。
鏡の向こうにいる俺は、紛れもなく「俺」だった。
だから余計に、訳がわからなくなる。
見た目も名前も、全部同じだった。
それなのに、何がどう“別”なんだ?
女は言ってた。
千冬は一人しかいない。
別の世界とは、“関わりを持てない”って。
それがイマイチわからない。
過去を変えられないのはわかる。
だけど、あの日の事故がなかった世界が、確かにあった。
隣に千冬がいた。
それは確かに「現実」なんだろ?
それが現実なら、じゃあここは?
現実が“2つ”あるっていうのか?
それとも、どっちかが嘘だっていうのか?
…わかんないんだ
どう考えればいいのか…
「どっちも現実で、どっちも同じ「世界」や」
「それが意味わからんのやって」
「ただお互いに干渉できないだけや。コインの裏と表のように」
「裏と表…」
「起こったことはもう変えられん。それはあんたの言う通りや。でも、やからこそキーちゃんはここにしかおらん。どこを探しても、ここにしか」
「…でも、千冬はおったんや。確かに、目の前に…」
「そうやな」
「それがよぉわからんのや。別の世界の千冬。…アイツがどこにおったんかは知らんが、確かに存在しとった。そうやろ?」
「うん」
「千冬は今も夢を見とるって言うたな?「時間」は全部繋がっとるって…。繋がっとるっていうことは、この世界とさっきの世界は同じところにあるんちゃうんか?」
「せやから…」
「俺が別の世界に行けたように、千冬も連れて行けれんのんか?ここじゃない世界に」
もしも、別の世界の俺が「俺」じゃないなら、千冬も、また…
でも、そんなこと考えたくもなかった。
夢なんかじゃない、確かな感触。
アイツの球を受けて思ったんだ。
豪快なあのフォーム。
蹴り上げた砂。
千冬で間違いない。
あの頃と何も変わってない。
ずっと受けてきたからこそわかるんだ。
受けた手が痺れるくらいに、ハッキリと。
「仮に連れて行けても、あんたに会うことはできん」
「そんなんどうでもええねん。千冬が助かるなら、なんでも」
「それやと意味がないんや」
「なんでや!?」
「「夢」を現実に変えることはできん。わかるやろ?言いたいこと」
「わからんわ…」
「あんたも夢で見とったはずや。キーちゃんの姿を」
そうだ。
ずっと近くにあった。
いつも頭の中に焼きついてた。
子供の頃の姿が。
「その頃のキーちゃんを思い出せても、もう、会うことはできんはずや」
「それがなんやねん」
「現実が現実であるためには、確かな「時間」が必要や。例え違う世界に行けたとしても、1つの現実を変えることにはならん」
「現実がどうとかどうでもええねん。ようは千冬の意識が、もう一度…」
いつも、夢の中で途切れてた。
振りかぶった千冬のフォームは、いつも、イメージの「中」にしかなかった。
日に日に記憶が薄らいでた。
時間が経つたびに、遠ざかっていってた。
まっすぐ伸びてくる軌道を追いかけて、それでも、触れることのできない距離。
構えたミットの中に、アイツのストレートがたどり着くことはなかった。
時間の波に呑まれて、だんだん、ボールの勢いがなくなって…
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