雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第293話

公開日時: 2023年8月15日(火) 19:09
文字数:1,313


 全くイメージができない。



 別の世界


 別の人生…



 そのことを頭の中で考えることはできても、つい、疑問に思ってしまう。


 “別”って言ったって同じ人間なんだ。


 鏡の向こうにいる俺は、紛れもなく「俺」だった。


 だから余計に、訳がわからなくなる。


 見た目も名前も、全部同じだった。


 それなのに、何がどう“別”なんだ?


 女は言ってた。


 千冬は一人しかいない。


 別の世界とは、“関わりを持てない”って。


 それがイマイチわからない。


 過去を変えられないのはわかる。


 だけど、あの日の事故がなかった世界が、確かにあった。


 隣に千冬がいた。


 それは確かに「現実」なんだろ?


 それが現実なら、じゃあここは?


 現実が“2つ”あるっていうのか?


 それとも、どっちかが嘘だっていうのか?


 …わかんないんだ


 どう考えればいいのか…



 「どっちも現実で、どっちも同じ「世界」や」


 「それが意味わからんのやって」


 「ただお互いに干渉できないだけや。コインの裏と表のように」


 「裏と表…」

 

 「起こったことはもう変えられん。それはあんたの言う通りや。でも、やからこそキーちゃんはここにしかおらん。どこを探しても、ここにしか」


 「…でも、千冬はおったんや。確かに、目の前に…」


 「そうやな」


 「それがよぉわからんのや。別の世界の千冬。…アイツがどこにおったんかは知らんが、確かに存在しとった。そうやろ?」


 「うん」


 「千冬は今も夢を見とるって言うたな?「時間」は全部繋がっとるって…。繋がっとるっていうことは、この世界とさっきの世界は同じところにあるんちゃうんか?」

 

 「せやから…」


 「俺が別の世界に行けたように、千冬も連れて行けれんのんか?ここじゃない世界に」



 もしも、別の世界の俺が「俺」じゃないなら、千冬も、また…



 でも、そんなこと考えたくもなかった。


 夢なんかじゃない、確かな感触。


 アイツの球を受けて思ったんだ。


 豪快なあのフォーム。


 蹴り上げた砂。


 千冬で間違いない。


 あの頃と何も変わってない。


 ずっと受けてきたからこそわかるんだ。


 受けた手が痺れるくらいに、ハッキリと。



 「仮に連れて行けても、あんたに会うことはできん」


 「そんなんどうでもええねん。千冬が助かるなら、なんでも」


 「それやと意味がないんや」


 「なんでや!?」


 「「夢」を現実に変えることはできん。わかるやろ?言いたいこと」


 「わからんわ…」


 「あんたも夢で見とったはずや。キーちゃんの姿を」



 そうだ。


 ずっと近くにあった。


 いつも頭の中に焼きついてた。


 子供の頃の姿が。



 「その頃のキーちゃんを思い出せても、もう、会うことはできんはずや」


 「それがなんやねん」


 「現実が現実であるためには、確かな「時間」が必要や。例え違う世界に行けたとしても、1つの現実を変えることにはならん」


 「現実がどうとかどうでもええねん。ようは千冬の意識が、もう一度…」

 


 いつも、夢の中で途切れてた。


 振りかぶった千冬のフォームは、いつも、イメージの「中」にしかなかった。


 日に日に記憶が薄らいでた。


 時間が経つたびに、遠ざかっていってた。


 まっすぐ伸びてくる軌道を追いかけて、それでも、触れることのできない距離。


 構えたミットの中に、アイツのストレートがたどり着くことはなかった。


 時間の波に呑まれて、だんだん、ボールの勢いがなくなって…



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