「無駄や。それはエコーに過ぎん。失われた時の流れの中の、ほんの些細な」
千冬!って叫んでも、返事はなかった。
海の前で立ち止まったまま、停止した世界の一部の中に溶け込んでいた。
——なんで?
どれだけ手を伸ばしても届かない。
どれだけ近づいても近づけない。
そんな感覚がすぐ隣を通り過ぎるのは、気のせい…?
俺は夢中で呼び続けた。
それしかないと思った。
それしか…考えられなかった。
「無駄って言うとるやろ」
「せやけど、目の前におるんや!…アイツが!千冬が!」
必死に触れようとする俺の手を掴み、女は毅然とした態度を取ってくる。
なんでここに千冬がいるんだ…?
なんであの頃の姿をした彼女が、この場所に立ってるんだ?
わけもわからずに視線を向けた。
ほとんど、何も考えられなかった。
「私は、“すべての時間”に関与することができる。せやから、こうして自由に歩くことができるんや。「時間」と「時間」の境界を」
「そんな意味わからんこと言われてもわからんわ…!なんやねんこれは!?」
「千冬とあんたは、ともに未来を歩くことができない。それは“運命”やった」
「 …何を、…言って」
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