「おはよ」
「今何周目ですか?」
「2周目」
「よし。ならセーフ」
「いやアウトやろ」
部室の裏の生垣を横切って、学校の外に出る。
パステルカラーのひさしが設置してある可愛らしいクリーニング屋が、開店準備を始めてた。
おはようございまーす。
今日も朝から水やりですか?
チョロチョロと音を鳴らしながら、じょうろの先で水が滴ってる。
水を浴びるキンモクセイが、髪を振りほどくように水雫を弾いてた。
キラキラと光る葉っぱ。
朝の日差しの下に寝転がるマンホール。
ピトッと張り付くてんとう虫が、テクテクと葉っぱの上を歩いていた。
クリーニング店の窓に映る向かい側のアパートで、ベランダに干してあるシャツが、ハタハタと風に揺られ。
窓のたくさんついている背の高いマンションは、ランニングコースの景色の1つだ。
パンダの置物があるフラワーショップも、誰もいない交番も。
部室のすぐ後ろは坂道になってて、周りには何もない。
何もないっていうか、ほとんどが家とか、アパートとか。
山沿いの街並みが、遊歩道の柵の向こうに広がる。
春になると綺麗な桜の並木道が、学校前の通りに続いていく。
部室はグラウンドの中にあるんだけど、神戸高のグラウンドは校舎とは別の敷地にある。
校舎は坂の上にあって、いちいち上ったり下りたりするのがめんどくさい。
神戸高の生徒にとっては苦行以外のなんでもない。
『地獄坂』
神戸では有名な坂だ。
グラウンドはその坂の下にあって、今はラグビー部と兼用のグラウンドになってる。
まぁ、つっても、他の部の人たちもちょろちょろしてるけどね?
陸上部なんかはしょっちゅう端の方でトレーニングしてるし。
専用のグラウンドがあるってのに。
坂道は文字通り急勾配で、カーブミラーがあるブロック塀の前まで続いている。
そのまま道なりに進んでいくと、山の麓に着く。
摩耶山の麓だ。
実は、朝のランニングが練習の中でいちばん好きかもしれない。
練習は大変だけど、坂道の上から眺める景色が、すごく綺麗だから。
「フゥ…フゥ…」
「おい、シャキッとせぇよ」
ランニング程度で息を切らすな。
亮平がおかしいのは態度だけじゃない。
色々とは言ったが、仕草とか言葉遣いとか、基本全部。
大体走り方おかしくない?
いや、別に変な走り方だとは言わないけどさ?
なんかもうちょっとこう…気だるそうな感じじゃなかった??
こっちの思い過ごしだといいけど。
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