「私たちはこの海で知り合ったんや」
「え?」
渾身のストレート。
バシィッという音が、グローブの中で弾ける。
力いっぱいに振りかぶって、女は投げてきた。
グローブの奥で左手が痺れた。
めちゃくちゃ、…いい球。
「この場所に、キーちゃんはよく来てた。偶然すれ違ったんや。同じように水平線を見てたら、たまたま目が合って」
千冬がよくこの海に来ていたのは知ってる。
アイツは、海が好きだったから。
昔はここでよくキャッチボールをしていた。
アイツが言い出したんだ。
「一緒にてっぺんまで行くぞ」って、街の坂道を駆けり。
「それで…?」
この場所でたまたま会って、そのあとは?
単純に気になった。
詳しい経緯はまあ置いておいて、どんな風に友達になったのかと思い。
「キーちゃんから聞いたことない?」
「…なにを?」
「いつか、誰も行ったことがない場所に行ってみたい。そう、言ってたこと」
知ってる。
千冬は、いつも遠い景色を見てた。
街の坂道を下るとき、線路の上を歩くとき、——どんな時もだ。
いつも空を見てた。
アイツは憧れてたんだ。
背の高い積乱雲の向こう側で、新しい明日がやってくること。
その岬に立ちたくて、走ってた。
誰よりも速く、足を動かしていたいと言っていた。
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