「いつか、一緒に行こうって約束した」
「へ?」
「海の向こうに広がる、まだ見たこともない世界に」
女の言葉は、水面の表面を泳ぐようにやさしく響いた。
透き通っていた。
なんて言うのかわからないけど、なんとなくそう思ったんだ。
まっすぐ向かってくるボールが、少しも曲がる気配がないように。
「せやから、あんたの力が必要や」
「俺の…力?」
「キーちゃんの夢を叶えることができるのは、あんたしかおらん」
アイツの夢。
世界でいちばん速いストレート。
俺は約束してた。
アイツの代わりにマウンドに立って、いつか、甲子園の舞台に行く。
アイツに憧れてたから。
また、一緒にグラウンドに立ちたいって思ったから。
だけど、最近になって感じるようになった。
もしかしたらもう、千冬とは会えないかもしれない。
もう一緒に、グラウンドには立てないかもしれない。
だんだん怖くなってきていた。
野球に触れるたび。
マウンドに立つたび。
新しい春がきて、桜が散るたびに。
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