ひょっとして、夢でも見てる…?
思わず、そう考えてしまう。
だから手をつねってみた。
できるだけ強く。
もし「夢」なら、彼女が千冬だっていうこともありえなくはないだろう。
それに、急に話しかけられてきたことだって
「私が千冬じゃなかったら、他の誰やって言うねん」
「こっちが聞きたいわ」
「この学生証を見てみぃ!名前書いとるやろ!」
「…ほんまや」
「ここにも、ほら!」
「…でも、アイツは今病院に…」
「病院!?」
俺の言葉がまるで信じられないと言ったように、彼女はたじろぐ。
千冬の名前が書かれた学生証と、教科書類。
でもそんなものはあり得ないんだ。
ここがもし、夢の世界じゃないのだとしたら。
バッティングセンターに向かう彼女の手を取って、病院に向かった。
走ればすぐに行ける。
今すぐにでも確かめたいと思った。
千冬はいつだってあの場所にいるんだ。
619号室のあの部屋に。
三ノ宮の街並みを一望できる、あの窓際に。
タンッタンッタンッ
彼女の手を引っ張って階段を登った。
エレベーターなんて待ってられなかった。
急いで駆け上がり、途中、息を切らした。
喉の奥が痛かった。
水分が足りなくなって、呼吸がしづらくて…
どこに行くんだと尋ねられたが、思うように答えられなかった。
千冬に会いにいこうとしてる。
それ以外に説明できるものがなかったからだ。
それをどう伝えればいいのかもわからなかった。
だって、「私が千冬だ」って、自信気に言うから。
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