「おかえり」
「…ただいま」
顔を洗ったけどダメだ。
一回冷静になろう。
…えっと、どこまで話してたっけ…
「あんたたちが未来で結婚しとったってところやな」
「う、うん…」
「せやけど、もうその「未来」はこない。——永遠に」
整理できずにいる中で、女は言う。
…永遠に?
でも、ちょっと待って…
そもそも、「結婚する」って言うのが…
「千冬って結婚したって、いつ?」
「せやから、“未来”」
「さっきの世界でってこと??」
「…いいや」
「ほんなら、どこで?」
わけわかんねー
さっきの世界じゃないって、じゃあどこだよ
「さっき言うたやん。“科学装置が発明される前”の世界やって」
「その科学装置ってなんやねん、…結局」
「『タイムマシン』みたいなもんや」
「タイムマシン!?」
「厳密には違うけどな?」
タイムマシンって、あの…?
仮にそれが発明されたとして、それが…?
「私たちは殺してしまった。これから生まれるはずだった、確かな「未来」を」
「“私たち”って…?」
「“人間”。この世界に生きる人たちのこと」
「…はぁ」
「永遠に生きることを望んでしまった私たちが、殺してしまった。“未来に生きるということ”、——その「時間」を」
“殺す”
ずいぶんと物騒な言葉を使う。
その口調は穏やかで、それでいて冷たかった。
少しだけ、怒っているような気もして…
「たった一度きりの夏が、まだ世界に残っていた時、あんたとキーちゃんは、確かな未来を約束してた。たった一つのボールが、あの海辺の上にあった。覚えとるやろ?2人でキャッチボールしてたこと」
「…そりゃ、まあ」
「せやけど、失われてしまった。もう2度と、あんたたちがすれ違うことは無くなった。この世界で、キーちゃんが事故に遭ったように」
…ちょっと待て
女の言葉を追いかける。
一体何を言ってんのか、すぐには理解できなかった。
だけど、こう聞こえたんだ。
まるで、千冬が事故に遭ったことが、“元々起きるはずのなかった出来事”だって。
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