高層ビル群を飲み込んでいく巨大な波。
傾いていく地面。
——それと、雨雲。
…あれは一体何だったんだ…?
夢にしてははっきりしてた。
現実にしては、あまりにぶっ飛んでた。
ポツポツと雨が降り始め、雷が、空の彼方で鳴っていた。
ぼろぼろと崩れていく街の景色。
少しずつ形を無くしていく、周りの建造物。
影も残さずに、空間へと融けていった。
信号機も、歩道橋も、電話ボックスも、——全部。
…何もかも、消えていったんだ。
とんでもないスピードで。
とんでもない、巨きさで…。
せり上がるような水の飛沫。
見たこともない、異常な気象。
単なる地震じゃ、あんなことにはならない。
なんて言うんだろ…
…街“そのもの”を持ち上げられるような?
それとも、体の内側を引っ張られるような…?
とにかくあり得なかった。
そう言うしか…ないよな…?
目の前が真っ暗になったんだ。
足元の地面が崩れて、底の見えない闇の中に引き込まれた。
瓦礫と化したアスファルトの隙間から真っ逆さまに重力が吹き込み、どこが地表だったかもわからないほど、柔らかい曲線が地面の上に走った。
足の裏にはもう、何もなかった。
指先に触れるものさえなかった。
空と地面の中心には、目で追いきれないほどの砂粒が舞っていた。
風が通り過ぎたんだ。
渦状に回転する気流が、ブワッと服を持ち上げる。
落下するスピードが空気抵抗を生みながら、ハタハタと体全部を揺らしていた。
さざめく光の粒が、崩壊する街の輪郭に沿って泳ぎ、全ての物質をほどきながら。
空は夕焼けのようにひどく赤らんでいた。
雲は嘘のように成長していた。
遠ざかっていく視界の向こう、その彼方には、——近づいてくる隕石が。
ゴオオオオオオオ
耳をつん裂くほどの音のそばで、——街が、全てが、巨大な穴の中に引き込まれていった。
とてつもない引力を感じた。
それこそ、身動きが取れないほどの。
目の前が一瞬見えなくなってしまうほどの光が、背後から押し寄せてきていた。
全身の細胞が、散り散りに焼けてしまうかのような爆風が、隕石の落下とともに訪れて——
「千冬は!?」
「…キーちゃんは病院におる」
「…違う!そうやない。目の前におったんや。ついさっきまで、すぐそこに…!」
「わかるやろ?もう、ここにはおらん」
「おらん…やと?」
嘘だ。
いない?
もう、ここには?
自分が何者かはわかってる。
ここが、どこかも。
だけど、そんなの…
「おらんってどういう意味や?」
「そのままの意味や」
「そんなアホな…。お前もあの場所におったやろ!?違うか!?」
「…」
なんで…黙るんだよ。
一緒にいただろ!?
崩壊していく街の表面に、お前は平然と立ってた。
なんで、世界が止まってたのか。
なんで、あんなことが起きたのか。
そんなことは今はいい。
目の前で遠ざかっていったんだ。
千冬の…、気配が…
あともう少しで届く。
もう少し手を伸ばせば、触れられる。
そんな距離に、彼女はいた。
だけど、崩れていく地面のそばで、あっという間に彼女は遠ざかっていった。
沈んでいったんだ。
——暗闇
…そのずっと、深いところに…
…だけど、もしそうだとしたら、“それ”が「現実」だったとしたら、今、どこに?
必死に訴えかける俺を横目に、女は静かに言うだけだった。
「病院に行こう」
俺たちは西宮に着く前に下車して、引き返した。
三ノ宮まで。
彼女がいる、——あの場所へ。
……………………
…………
…
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