…チチチ
次の日が来ても、夢から覚めたような気分にはなれなかった。
…眠い。
猛烈に。
昨日はあんまり寝付けなかった。
多分2時くらい?
眠れないから、ひたすらアメコミ映画を流してた。
部屋にあったんだ。
アメコミだけじゃなくて、B級映画とかホラーとかも。
ボーッとすんなと夏樹に叱られたが、思うように歩けない。
カレンダーを見る。
時計も、部屋の中も。
神戸高の制服がハンガーにかかっている。
着た覚えのないユニフォームは、相変わらずソファにかけられたままだ。
思いっきり目を擦る。
…一体何度目だ?
この所作。
…まあ、そりゃそうだって話ではある。
この世界が現実かどうかはさておき、信じられないことばかりが続いてるんだ。
頭がどうにかなっちまいそうだ。
ほんとに。
まさかあの場所で、千冬に遭遇するとは思わなかった。
俺はただ、頭を冷やしたかっただけだ。
海風に当たって、塩の匂いを嗅ぐ。
そうすりゃ、少しは落ち着くだろ。
そう思ってたのに。
「いい夢でも見たんか?兄ちゃん」
「うっせぇ」
ヨーグルトの中にピザソース入れちまった。
やべぇ…
完全なミス
「夏樹、これやる」
「なんこれ??」
「ヨーグルト」
「何が入っとん?」
「いちご」
「ふーん。………おい!嘘つくな!!」
どうやら、しょっぱかったらしい。
お前のバカ舌でもわかるんだな。
安心したよ。
同じ血を分けた兄弟として。
夏樹に頭を叩かれながら、学校に行く支度をする。
今日も今日とて、不思議な感覚だ。
支度っつったって、全然しっくりこない。
今日も朝練があるみたいだが、結局バックも取りに行ってない。
おかんが、今日の夜代わりに取りに行ってくれる。
だから手元にないんだよ。
道具が。
ユニフォームはあるけど。
「今日も探しに行くん?」
「探すって…?」
「彼女や彼女!」
…ああ、アイツのことか。
って、誰が彼女だ!!
千冬が余計なことを吹き込んだせいで、へんな誤解を生んでしまっている。
そうだ。
そういえば、アイツのことをすっかり忘れてた。
探さなくちゃいけないんだった。
手がかりらしい手がかりは、まだ見つかってないが。
ジャーーーー
ふう。
洗面台で顔を洗った。
寝不足のせいか、目の下が黒い。
目薬なかったっけ?
えーっと。
正直、もう何があっても驚かないつもりでいた。
あの場所で、千冬と遭遇するまでは。
だけど、昨日の出来事はレベルが違った。
…なんつーか、“そんなバカな”って感じだった。
もちろん、千冬と再会できた時の衝撃に比べりゃ、全然大したことないって思うかもしれない。
俺だってそう思う。
あれは“異常”だった。
まるで、地震が起きた時みたいに。
…けど
千冬が振りかぶる姿を、どれだけ想像してきただろう。
千冬の投げる姿を、どれだけ…
目の前にいるってわかってても、まさかまた、彼女の球を受けれるとは思わなかった。
めちゃくちゃ左手が痛かった。
まだ、あの感触が残ってる。
まっすぐ向かってくる軌道。
重心の残ったフォーム。
夢の中で見た彼女の姿が、そこにはあった。
子供の頃と変わらない、——それでいて、イメージの中にしかなかった、あの夏の向こうにある“気配”が。
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