友達の姿は、そこにはなかった。
理科室だけじゃなくて、他の場所にも。
将棋部自体はいた。
いたっつーか、あれはいたうちに入るのか?
いつもは10人ほどいたのに、5人もいなかった。
美術室は相変わらずの大盛況だった。
美術室と言えば、『テディベア研究部』が占拠してる場所だ。
ざっと20人はいる。
テディベアの何を研究するんだ?っていっつも思うが、そもそもそんな部活があること自体が驚きだった。
入学当初は。
多分、県内で他にないんじゃないか?
一之瀬さんもびっくりしてた。
何ここ!と目を輝かせて。
…しっかし、困ったな。
なんでどこにもいないんだ?
こうなったら、職員室にでも行って直接聞く?
教室のベランダからグラウンドを見渡してみる。
風に運ばれてきた海の匂いと、須磨海岸の西日。
“アイツ”は、多分いない。
なんだかそんな気はした。
沈んでいく陽の光は、いつもと変わらないスピードで落ちている。
着てる制服は違っても、やっぱりここは、俺の通ってる高校だ。
匂いとか景色とか、全部“知ってる”。
ずっと隣にあった。
教室のドアの色も、廊下の窓から見える外の空気も。
でも、アイツの気配だけはどこにもなかった。
アイツの机はもちろん、下駄箱も、校舎のどこにも。
”追いつけそうで追いつけない“っていうのかな。
痒いところに手が届かない。
あの感じ?
わかんねーけど、そんな感触をそばに感じる。
きっと、近くにいない。
そんな気配を。
ここにいないとしたら、——どこに?
まさか、本当に大阪に帰ったとか?
だとしたら探しようがなくないか??
具体的な場所も聞いてないんだから。
「どうすんの?」
せめて野球部のみんなには会いたいが、そっちはそっちで、なんとなくいなさそうなんだよな…
もうひと回りしてみようとは思うけど、どうだろ
「見つからなかったら?」
「帰る」
「諦めんの?」
「うーん…」
他に見つかりそうな場所なんてない。
ここにいないんだったら、どこを探せば?
正直、あんまり期待してなかった。
だってアイツ、元々神戸にはいなかったんだ。
俺が須磨高に通ってないように、アイツだって…
読み終わったら、ポイントを付けましょう!