いつもやかましくて、向こう見ずで、そのくせ不器用で。
冗談ばっかり言うへんな奴だと、思ってた。
子供の頃はとくに。
でも今は違うんだ。
アイツは、俺の中でヒーローなんだ。
どんな戦隊モノも敵わない。
まるでアニメの主人公みたいだった。
試合に負けそうになっても、なんとかなると思ってた。
ただ、ミットを構えてれば、それだけで。
ガチャ…
この場所に来るたびにいつも思う。
どうして目を覚まさないんだ?
どうして、返事をしてくれないんだ?
いつも俺の前を走ってたのに、今じゃ、立ち上がる素振りさえなくて。
「キーちゃん、久しぶり」
女は千冬の顔を見るなり、やさしい声で挨拶を交わした。
ベットの横にある丸椅子に腰かけ、手を握る。
千冬は返事をしない。
それはいつものことだ。
…きっと、それは永遠なんだと思う。
これから先、ずっと、千冬が世界に戻ってくることはない。
俺にはわかってた。
どう足掻いたって、もうどうしようもないことを。
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