しんと静まり返る交差点の真ん中で、彼女は空を見上げた。
——空を?
わからない…
空はもう、動いてない。
地面も、街の景色も。
何を見てる…?
頭上には雲があるだけだ。
季節の変わり目に漂う、うろこ雲が。
「私たちが初めて出会った場所を、覚えとるか?」
初めて、出会った…?
何言ってんだ…?
出会ったっつーか、お前が話しかけてきたんだろ?
この前、学校の帰り道で。
「私たちは昔、旅をしとった。お互い、明日が来ることを信じて」
「…は?」
「遠い昔の話や。数え切れないくらい、昔の」
意味が、わからない。
“私たち”?
元々、意味がわからないことばかり言うやつだ。
未来から来たとか、“俺とは違う世界で生まれた”とか。
理解しようとは思わなかった。
しようと思ったってできねーし。
「なに言うとんや?」
「あんたの目には、時間が止まっとるように見える?」
「…え、ああ、まあ」
「仮にそう見えたとしても、その解釈はちょっと違う」
「…は?」
どっからどう見ても止まってる。
あと、難しい言葉を使うんじゃねー。
頭に入ってこないんだよ、ややこしくて。
「私とあんたは、元々出会うはずはなかった。この街、この世界で」
「なんて…?」
「前に言うたやろ?この世界には、いくつもの世界線があるって」
「それが?」
「今日という日に起こる出来事は、未来に於いてまだ決まってない。空に浮かぶ雲の形も、明日、雨が降るかどうかも」
「それが…どうかしたんか?」
「私たちが立ってるこの場所は、時間が常に対流しとる。今、この瞬間も」
対…流?
「…って?」
「“境界”が生まれ続けとんや。現在と、現在の間に」
どっかで聞いたことがある。
…それって、前に言ってたやつだよな?
前に世界が止まってた時、お前は言ってた。
《自分だけが、この境界に立つことができる》
…確か、そうだ。
現在と現在を結ぶ、線の内側…
「…えーっと、つまり?」
「あんたと出会った初めての場所や。ここが」
………
……………
…………………はぁ?
ここが、って、違う違う。
こんなところで俺たちは出会ってない。
頭は混乱してるが、さすがにそれはわかる。
俺たちが出会ったのは須磨駅の近くだ。
歩道を歩いてたら、急にお前が立ち塞がってきた。
忘れたのか?
「この「世界」ではな?まぁええわ」
「いやいやいや、勝手に締めんなや!どういうことや??」
「説明してもわからんやろ?」
「…説明っていうか、なんやねん「この世界は」って」
全然意味がわからん。
あれか?
また「違う世界」とか言い出すのか?
勘弁してくれよ。
それだってまだ、なんのことかよくわかってないんだ。
「世界線」っていうのもそうだし、「並行世界」についても。
「バカに言ったってしょうがないやろ」
「喧嘩売っとんか!」
「お?やるか?」
喧嘩なんてしてる場合じゃない。
わかるだろ?
異常事態なんだって!
周りを見てみろ!
人も、車も、全部動いてない。
どうなってんだよ、まじで。
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