考えても埒が明かなかった。
何か言えばへんな目で見られるし、会話は一向に成立しないし。
自分の身に起こってる“異常事態”は、財布を落としたとかカバンを無くしたとかで焦るようなレベルになかった。
突然目の前の世界が変わった。
…そんなこと、夢の中だってそうそう無い。
無いはずなのに…
スマホを開いた。
とくに理由はなかった。
ただ彼女が、「ライン」のやり取りを見ろって言うから、仕方なく。
昨日も、一昨日も、俺たちはやり取りしてた。
それだけじゃない。
ラインの連絡先に、俺の知っている人たちがいなかった。
代わりに、名前も聞いたことがない奴らがいた。
正体不明のグループだって存在した。
「同期専用」とか「神戸高野球部」とか。
何より目を疑ったのは、千冬のニックネームだ。
小学生の頃から変わってない。
ひらがなで書かれた、“ちふゆ“の文字。
昔の名前のまま、それがスマホの中にあった。
アイコンが変わった、たった1つのアカウントが。
小学生の時に途切れたトークは、もう残ってなかった。
どれだけスクロールしても見つからなかった。
ずっと残してたんだ。
スマホの中に。
更新されていない、最後のラインのやり取りを。
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