ボッ
全身が、雲の海の中にダイブする。
そこに「形」はなかった。
全身にぶつかっていく気流は、水面を揺らした時のように滑らかな振動を伴っていた。
半透明な粒と泡が、空気中を駆け抜けていく。
目まぐるしい速度で回転し、上昇する気流を掴んで。
——渦。
その軌道に乗っかって、光と波が交錯していく。
雲の表面を覆っていた水蒸気の峰。
その滑らかな曲線は、対流圏の表層にぶつかった途端に砕けていった。
あっという間だった。
それでいて、緩やかだった。
大気中にかたまって浮かぶ水滴の一つ一つが、屈折する光のそばに破裂していた。
確かな線と、——実体。
氷晶が、ゴムを引っ張ったように伸縮していた。
ぼんやりとした色とその形状は、対流する空気の“平面上”にはなかった。
パチパチパチパチという音と、サァァァァァという流れ。
指先に触れる感触は冷たく、柔らかい。
雲の表面上に広がる境界はぶ厚かった。
まるで、白いインクを垂らしたように。
地球の重力に引っ張られるその進行方向に向かって、その“層”は幾重にも織り重なっていた。
ただはっきりとは、その断面の線を捉えることはできなかった。
雲の中へと沈んでいく先で、バラバラにほどけていく氷の粒子が、霧状に飛散していった。
白く濁った靄が、——灰色が、一気に眼球の中へと流れ込んでくる。
スポンジに穴を空けたように、また、水の中に飛び込んだ時のように、確かな感触を連れて来る。
持ち上げられる感覚と、引っ張られていく視界。
光は吸い込まれていた。
深い靄の奥へと滑り込みながら、凝結した水滴を貫き、透けていく。
全身に触れていく空気の流れ。
粒子をかき分けていく重力。
底の見えない深淵が、時間を追うごとに濃くなっていった。
——そして
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