雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第347話

公開日時: 2023年10月7日(土) 15:00
文字数:706




 ボッ




 全身が、雲の海の中にダイブする。


 そこに「形」はなかった。


 全身にぶつかっていく気流は、水面を揺らした時のように滑らかな振動を伴っていた。


 半透明な粒と泡が、空気中を駆け抜けていく。


 目まぐるしい速度で回転し、上昇する気流を掴んで。




 ——渦。




 その軌道に乗っかって、光と波が交錯していく。



 雲の表面を覆っていた水蒸気の峰。


 その滑らかな曲線は、対流圏の表層にぶつかった途端に砕けていった。


 あっという間だった。


 それでいて、緩やかだった。


 大気中にかたまって浮かぶ水滴の一つ一つが、屈折する光のそばに破裂していた。


 確かな線と、——実体。


 氷晶が、ゴムを引っ張ったように伸縮していた。


 ぼんやりとした色とその形状は、対流する空気の“平面上”にはなかった。


 パチパチパチパチという音と、サァァァァァという流れ。


 指先に触れる感触は冷たく、柔らかい。


 雲の表面上に広がる境界はぶ厚かった。


 まるで、白いインクを垂らしたように。



 地球の重力に引っ張られるその進行方向に向かって、その“層”は幾重にも織り重なっていた。


 ただはっきりとは、その断面の線を捉えることはできなかった。


 雲の中へと沈んでいく先で、バラバラにほどけていく氷の粒子が、霧状に飛散していった。


 白く濁った靄が、——灰色が、一気に眼球の中へと流れ込んでくる。


 スポンジに穴を空けたように、また、水の中に飛び込んだ時のように、確かな感触を連れて来る。


 持ち上げられる感覚と、引っ張られていく視界。


 光は吸い込まれていた。


 深い靄の奥へと滑り込みながら、凝結した水滴を貫き、透けていく。


 全身に触れていく空気の流れ。


 粒子をかき分けていく重力。


 底の見えない深淵が、時間を追うごとに濃くなっていった。




 ——そして




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