「…しゃっ!」
女はガッツポーズをして、見事に空振りした俺を見ながら、声を上げた。
…振り遅れた、だと?
うまく現実を受け止めきれずにいた。
呆然と立ちすくんでいる横で、女は近づいてくる。
「あんたの負けね」
勝つとか、負けるとか、そんなことはどうでも良かった。
俺はすっかり見入ってしまっていた。
およそ女子高生とは思えない、オーソドックスなピッチングフォームに。
「…さてはお前、男やな?」
「はぁ!?」
そうじゃないと説明がつかない…
何者か知らないが、そんじょそこらのやつが投げる球じゃなかった。
控えめに言ってバケモンだ。
俺が油断していたというのもあるが…
「失礼なやつやな」
「…それはお前だろ」
色々言いたいことはある。
勝負には応じたものの、まだ名前も聞いてない。
「まじで、誰?」
至極真っ当な質疑だと思う。
ただ、応答がない。
女は地面に転がったボールを拾って、埃を払った。
「はい」
「…ああ、どうも」
ずいぶん几帳面じゃないか。
見かけによらず
「今、私のことバカにいたやろ?」
ギクッ
まるで見透かしたようにこっちを見てくる。
日に焼けたとは言ったが、よく見ると透き通った肌だ。
丸みおびたシャープな顎のラインは、端正な顔立ちと相まって奥ゆかしい。
(…男じゃないな)
自然とそう思えた。
まあ、いちいち考えなくてもわかることなんだが。
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