「落ち着け」
「落ち着いてられるか!大体…」
「?」
「どこにおったんや?ずっと」
「まあ、色々」
「ふざけとんか?」
「ふざけとるように見える?」
「思いっきり見える」
「ハハ。まぁそんな怖い顔すんな。色々見て回ったんやろ?この世界のこと」
…コイツ
そりゃ色々見て回ったさ。
あれもこれも、全部お前を探すためだ。
急にいなくなりやがって。
いなくなるならなるで、せめて連絡くらいよこせよ。
めちゃくちゃ苦労したんだぞ。
「私もあんたを探しとった」
「嘘つけ!」
「ほんまやほんま。まあちょっと寄り道したけど」
「ずっとどこにおったんや?」
「それは、企業秘密」
「…おいおい、やっぱふざけとるやろ?」
いい加減にしろよまじで。
めちゃくちゃ困ったっつーのがわかんねーのか?
昨日は特にそうだった。
探すアテもねーから、わざわざ須磨高まで行ったし。
岩崎には追われるしで大変だった。
危うく説教喰らうとこだった。
全部お前のせいなんだぞ?
「女々しいやつやなぁ」
「どこがや!つーか、ここはどこや!?」
「ここ?交差点やが?」
「そういう意味ちゃう。わかるやろ??言いたいこと」
世界が変わってるんだ。
何もかも。
目を閉じて、開けたらお前はいなかった。
声が聞こえてきて、——目の前にいたのは。
シャワシャワシャワシャワ…
夏の音が聞こえた気がして、ふと、周りを見る。
けれど木の葉さえ、揺れる気配がない。
気のせいだったみたいだ。
…どうやら
女は、俯いたように視線を落とし、横断歩道の白線の上を歩いている。
俺の話を聞いてるのか聞いてないのか、わからないくらい悠然と。
あの時お前は、“ジャンプするぞ”って言ってきた。
はっきり覚えてるんだ。
不思議なくらい、鮮明に。
あの言葉はどういう意味だ?
この世界は、千冬が事故に遭わない世界なのか?
横断歩道を渡った先の歩道に立ち、彼女は振り返る。
停止した信号の青と、——大通り。
女は言った。
“あんたは今、交差点の真ん中にいる”、と。
そんなの見りゃわかるだろ。
そう言いたい気もしたが、言えなかった。
どこか、寂しそうな顔をしていたから。
一体何を考えてるのか、すぐには読み取ることができなかった。
元々、コイツの考えなんて知る由もない。
最初からそうだった。
礼儀ってものを知らねーし、すぐに頭を引っ叩いてくるし。
「今あんたが目にしとるものは、紛れもなく1つの現実や」
…俺が、…目にしてるもの?
その言葉が意図してるものを、なんとなく、わかったつもりではいた。
目の前で起こってることがなんであれ、ようは、「もう1つの世界」が目の前にあるんだろ?
前に言ってたじゃないか。
世界には色んな形がある、色んな可能性が広がってる、って。
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