細い路地をまっすぐ進み、川を挟んだ反対側の住宅地に向かって歩いた。
普段は歩かない道だ。
女はすらっとした見た目とは裏腹に、ずいぶん男らしい歩き方をする。
断ってはおくが、別に悪い意味じゃない。
後ろ姿はいかにも女子高生って感じなんだが、ズンズン進んでいくその姿は、まるでウチの母親みたいだ。
あ、ということまあ…、あまりいい意味ではないか。
少なくとも、「可愛い」っていう表現からはほど遠い。
顔は別に悪くはなかったけど。
住宅地を進んだ先にある水路沿いの橋を渡り、広い場所に出た。
バスケットコートのある公園と、グラウンド。
ほんとにあったと思いながら、立ち止まる。
女は振り向いて、「この場所、知らない?」と聞いてきた。
「知らない」
この地区のことはよく知らない。
家に帰るときは海沿いを歩く。
その方が近いからだ。
「桜木町。この近くに私の家がある」
…だから?
突っぱねる言い方をして悪いが、だからなんだと言いたい。
一体なんの用があるんだ?
こんな所に連れてきて。
「ボール、持ってるやろ?」
「は?」
「そのバックの中に」
女はバックを指差すなり、ボールを出せと言ってきた。
…ボール?
意味がわからなかったわけじゃない。
もちろん意味はわかる。
ボールといえば1つしかない。
硬式野球ボールだ。
でも、なんで?
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