神戸学院大学の入口を抜けて、おじさんがよく出入りするという研究所に俺たちは向かった。
おじさんに会いにいくのかと思ったが、違うみたいだ。
大学の構内を歩く。
平日ということもあって、大学生が結構いた。
千冬と来てた時は、いつも夜だった。
日中に来ることはあんまりなかった。
…いや、出会った頃は違うな。
でも、大体いつもそうだ。
大学には寄らずに、港まで自転車を漕いでた。
ハーバーランドの端にある埠頭を目指して、船が見える場所まで。
「研究所に行ったことは?」
「どの場所のこと言っとんか知らんけど、多分ある」
「どんな場所やった?」
「あんま覚えとらん」
望遠鏡がある場所は、構内の奥にある。
奥って言っても、広すぎてなんとも言えない。
森に囲まれたセミナーハウスや、芝生に囲まれたレンガ作りの校舎。
イチョウの並木道が続くイノベーションセンター前の通りには、木陰の落ちる石畳が。
総合図書館の中には、世界中の本が眠ってるんじゃないか?っていうくらい、たくさんの本棚が並んでた。
エスカレーターで4階まで行けて、柵の下に見える中央フロアを、よく眺めてた。
空の光が落ちてくる天井窓と、ドット模様の外壁。
とにかく広いんだ。
上も下も。
夕方に訪れた時は、よく漫画を読み漁ってた。
2階のフロアをぐるっと回って、外のテラスに出れるスペースの反対側を進んでいくと、木でできた温かい空間がある。
そこでは程よいBGMが流れてて、誰かの話し声も聞こえない。
レザーシートのソファの上に寝転んでた。
時間も忘れて寝てしまう時もあった。
かくれんぼをしてた時もあったな。
広すぎて、勝負になんなかったけどさ?
「研究所」っていう言葉を、当時は聞かなかった。
ここが「学校」だっていう認識もなかった。
色んな人たちが出入りしてる“公共の場”だって、思ってた。
ずっと。
「ふーん」
「最初の頃はよく来てたんやで?」
「その後は?」
「その後…、うーん。大した意味はなかったんちゃうか?多分たまたま。どっちかっつーと、おかんの店によく遊びに来てた。千冬のやつ、おかんのことがめっちゃ好きでな?」
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