雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第321話

公開日時: 2023年9月12日(火) 23:00
文字数:854


 神戸学院大学の入口を抜けて、おじさんがよく出入りするという研究所に俺たちは向かった。


 おじさんに会いにいくのかと思ったが、違うみたいだ。


 大学の構内を歩く。


 平日ということもあって、大学生が結構いた。


 千冬と来てた時は、いつも夜だった。


 日中に来ることはあんまりなかった。


 …いや、出会った頃は違うな。


 でも、大体いつもそうだ。


 大学には寄らずに、港まで自転車を漕いでた。


 ハーバーランドの端にある埠頭を目指して、船が見える場所まで。



 「研究所に行ったことは?」


 「どの場所のこと言っとんか知らんけど、多分ある」


 「どんな場所やった?」


 「あんま覚えとらん」



 望遠鏡がある場所は、構内の奥にある。


 奥って言っても、広すぎてなんとも言えない。


 森に囲まれたセミナーハウスや、芝生に囲まれたレンガ作りの校舎。


 イチョウの並木道が続くイノベーションセンター前の通りには、木陰の落ちる石畳が。


 総合図書館の中には、世界中の本が眠ってるんじゃないか?っていうくらい、たくさんの本棚が並んでた。


 エスカレーターで4階まで行けて、柵の下に見える中央フロアを、よく眺めてた。


 空の光が落ちてくる天井窓と、ドット模様の外壁。


 とにかく広いんだ。


 上も下も。


 夕方に訪れた時は、よく漫画を読み漁ってた。


 2階のフロアをぐるっと回って、外のテラスに出れるスペースの反対側を進んでいくと、木でできた温かい空間がある。


 そこでは程よいBGMが流れてて、誰かの話し声も聞こえない。


 レザーシートのソファの上に寝転んでた。


 時間も忘れて寝てしまう時もあった。


 かくれんぼをしてた時もあったな。


 広すぎて、勝負になんなかったけどさ?



 「研究所」っていう言葉を、当時は聞かなかった。


 ここが「学校」だっていう認識もなかった。


 色んな人たちが出入りしてる“公共の場”だって、思ってた。


 ずっと。



 「ふーん」


 「最初の頃はよく来てたんやで?」


 「その後は?」


 「その後…、うーん。大した意味はなかったんちゃうか?多分たまたま。どっちかっつーと、おかんの店によく遊びに来てた。千冬のやつ、おかんのことがめっちゃ好きでな?」



読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート