雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第237話

公開日時: 2023年6月23日(金) 00:32
文字数:893


 「おーい!」



 ある日、——確かあれは、日曜日の朝だった。


 部屋の窓の外から、声が聞こえてきたのは。


 気のせいだと思って、窓を開けなかった。


 そしたら、もう一度声が聞こえてきて。



 「おいってば!」



 …誰?


 びっくりしたんだ。


 夏樹じゃない。


 おかんでもない。


 …だったら、誰??



 恐る恐るカーテンを開けた。


 窓を開けて、外を見た。


 そしたら、その先にいたんだ。


 彼女が。


 俺は慌てて、自分の顔を指さした。


 

 「あんたやあんた!」


 「…なにか用?」



 千冬は俺の顔を見るなり、降りてこいと催促してきた。


 確か、隣のクラスの…?


 同じ学校の子であることは、その時にわかった。


 ただあの時は、まさか家が近くだとは思わなかった。


 俺より遠いところに住んでるのに、バスで通ってなかったもんな?


 あの頃から自転車で通学してて、めちゃくちゃ漕ぐのが早かった。


 元気な子がいるなぁ、くらいの印象だった。


 当時は。


 だから驚いた。


 なんで家の外にいるのかと思って。



 後ろ向きに被った帽子。


 膝についた絆創膏。


 降りてこいと言ってくるから、俺は仕方なく外に出た。


 ぶっちゃけ怖かった。


 何を言われるのかと思い…



 「今ヒマ??」


 

 …え?


 誰かにそんなふうに聞かれたことはなかった。


 ないっつーか、仮に暇だったとして、何?


 素直な感想だった。


 それが。


 だけど彼女は、うまく答えられずにいる俺に対して、ずいっと顔を近づけてきた。


 反射的に後ずさる俺を追いかけ、手を差し出せと言ってきた。



 「はい、これ」



 わけもわからずに手を広げると、そこには、得体の知れないものが。


 重くて、ゴワゴワしてる。


 最初それを見た時、汚い雑巾か何かかと思った。


 何これ?!って、思わず声に出したんだ。


 そしたら、ニコッと笑いながらこう言った。



 「キャッチャーミットやで」



 キャッチャーミット??


 戸惑ったんだ。


 そんな単語、聞いたことなかったから。



 「なに、それ?」

 

 「キャッチャーミットを知らんのか??」


 「知らない」


 「…はぁ、まあええわ。私が教えたる。ついてき!」



 千冬に誘われて出かけた、昼下がりの午後。


 ボロボロのキャッチャーミットを両手に抱えて、必死に後ろを追いかけた。


 理由もなく、“一緒に走ろう!”と言われたのは、あの時が初めてだった。

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