雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第155話

公開日時: 2023年4月29日(土) 15:04
文字数:883


 家の中も様変わりしていた。


 知っている景色もある。


 でも、よく見ると、全然違う。


 全部記憶になかった。


 そりゃそうだ。


 そもそも、なんで自分が、神戸高の制服を着てるのかもわからない。


 考えることが多すぎてパンクしそうになった。


 買い替えたはずの電子レンジが以前のに戻ってたり、見たこともないカーペットが床に敷かれてたりするのは、どう考えても“異常”なことだよな?


 何から整理すればいい?


 …一体何から、考えていけばいい?



 並行世界


 …並行世界




 そういえば、「神戸高校に通ってる俺がいた」と、女は言ってた。


 …そうだ!


 思い出した。


 俺と千冬はライバル関係で、一緒に甲子園にも行ったって…


 話がぶっ飛んでて信じてなかったが、あの「話」の通りだと、ここは…



 

 壁の向こう側に連れて行ってやると、女は言った。


 その「壁」がなんなのかを詳しくは聞いてないが、今のこの状況を説明できることがあるとしたら…



 アイツの言葉を思い出そうとした。


 半信半疑でちゃんと聞いてなかった自分を恨むが、後悔したって仕方がない。


 冷静に考えなきゃダメだ。


 …確か、世界にはいくつかのパターンがあるって言ってて、例えば、違う学校に通ってる自分がいたり、今とは別の環境の中にいる人たちがいたり…



 “自分が力を使えるのは、「可能性」の中に生まれたから“って言ってた。


 意味はよくわからないが、その可能性っていうのは恐らく、「並行世界」っていう言葉となにか関係があるんだとも思う。


 …とは言ってもなあ



 とりあえずアイツがいないと、この状況を理解できない。


 きっとアイツが、何かしたんだと思う。


 じゃないと説明がつかない。



 ひとまず彼女のことは「千冬」と呼ぶことにした。


 違和感マックスだが、他に呼び方もなかったし。


 彼女は彼女で、俺のことを「亮平」と呼ぶ。


 それが、当たり前であるかのように。


 俺は彼女に説明した。


 ”説明”って言っても色々ややこしかったが、…まあ、それなりに。


 電車で起こったこと、なんでこんなに慌ててるかってこと、全部話した。


 ちゃんと説明できてるかどうかはわからなかった。


 でも、黙って聴いてくれた。


 台所に座って、うすしお味のポテトチップスを頬張りながら。




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