雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第339話

公開日時: 2023年9月29日(金) 19:43
文字数:1,269



 部屋の奥にある扉の前に立ち、カードキーをかざした。


 緑のランプが点灯し、ハンドルが回る。


 プシューッという音を立てて。




 「…うわ、なんや、ここ」




 重い扉の向こうには、巨大な機械が設置されていた。


 部屋の中央にコンテナのような箱型のボックスが置かれ、壁沿いには、パソコンの内部を剥き出しにしたような電気回路が、楽譜の譜面のように規則正しく整列していた。


 ブラウン管のテレビに似たモニターが、何十個も埋め込まれている。


 床にはコードが散乱していた。


 3メートル近くある電子制御機器の基板には、様々な形をしたプラグが、夥しいほどに差し込まれていた。

 


 空間自体は狭かった。


 狭いというか、圧迫感を感じた。


 部屋の隅にはポッド型の容器が、2つ、敷き並べられていた。


 病院にある、MRIみたいなドーナツ型の機械装置が、その容器に連結するように設置されていた。


 容器自体は横たわってる。


 その装置に、もたれるように。



 奇妙な空間だった。


 巨大な機械の周辺にはいくつものコネクタがあり、無数のランプが、所狭しと点灯していた。


 何と何が繋がっているのかもわからないくらいの、ボタンやスイッチ。


 天井はそれなりの高さがあり、照明は薄暗い。


 奇妙というか、不気味な感じか…?


 部屋に入った途端に、音が遮断されたように空気が重くなった。


 多分気のせいだとは思うけど、窓が一つもないせいか、暗い穴の中に閉じ込められたような、陰鬱な気分に襲われる。


 女は、自分の背丈よりも大きな操作盤を触っていた。


 電源を入れたのか、ブゥゥンという振動音が響き、モニターの画面が接続される。




 迷ってる様子は少しもなかった。


 慣れた手つきでテキパキと進め、画面上にコードを入力していた。


 いくつかのモニターを見ると、ローマ字とか数字が上から下までズラッと並んでて、ぱっと見、何を書いてるのかがわからない。


 ブレーカーに似たレバー式のスイッチが、太い配管に繋がれる制御ボックスの中に見えたが、触るとどうなるんだろうか?


 こういう電気機器って、つい触りたくなっちゃうんだけど、わかる?


 女は「じっとしてろ」と嗜めてくる。


 …はい、すいません


 じっとしておきたいが、椅子も何もないじゃないか。


 倉庫並みに暗いし、妙に蒸し暑いし…



 「何する場所なんや?ここ」


 「そこにポッドが見えるやろ?」


 「横たわっとるやつ?」


 「横たわってる?…ああ、そう見えなくもないか。それそれ」


 「あれがどうかしたんか?」


 「あれを使って、あんたの脳の中にあるチャンネルへとアクセスする」



 ……??


 ………えっと、よく聞こえなかったんだけど



 「あの中に入るってことや」



 …あの中って、あのポッドの中に…?



 「うん」



 いやいや、無理無理無理…!!



 あれって、人が入るもんなのか…?


 大きさ的には入れそうだが、用途が謎すぎる。



 「…冗談よな?」


 「冗談に聞こえる?」



 聞こえるか聞こえないかって言われたら聞こえない。


 …え、がちで?



 「ビビっとんか?」


 「ビビるやろそりゃ」



 ただでさえ得体が知れないってのに、あの中に“入る”だぁ!?


 絶対にやなんだけど。



 「別に怖いもんちゃうで?」


 「この場所がすでに怖いんやけど?」


 「そう?」




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