雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第341話

公開日時: 2023年10月1日(日) 15:29
文字数:945


 「ほんまに無理」


 「なら、帰るか?」



 声が引きつりながら、彼女の目を見る。


 今なら引き返せるぞと言わんばかりに、その表情は穏やかだった。


 心なしか、強張っているようにも見えた。


 どうしたいかを尋ねる言葉に、少しだけ、速くなる息遣いがあって。



 「帰らない…けど…」



 ここまで来て、引き返したくはない。


 千冬に会うって決めたんだ。


 助けられるか助けられないか、それはわからない。


 もしかしたら助けられないかもしれない。


 でも…



 「…中に入って、どうなるんや?」


 「目を瞑るだけでええ」


 「目を瞑るだけ…?」


 「あとは私が操作する。中でリラックスしといたらええ」



 リラックス…ねぇ


 できるわけないだろ


 せめて、音楽かなにか流してくれないと…



 「贅沢言うな」


 「中でスマホいじってていい?」


 「ダメ」


 「何かしとかんと落ち着かんのんやが…」


 「ほんならこれ持っとき」


 「え?」


 「はい、これ」



 戸惑いながら手を差し出すと、ザラザラした手触りが。


 弾力のある表面。


 千冬の、ボールだった。



 「お守り。しっかり握っとき」



 握っとけと言われても…


 つーかこれ、あとでちゃんと返せよ!


 勝手に持ち出してんじゃねー



 恐る恐る、ポッドの中に足を踏み入れた。


 シートは思いのほかしっとりとしていて、触り心地がいい。


 ただ、手すりも何もなくて、ゴツゴツした凹凸のある形状が、スッと中に入るには適していなかった。


 シートの上に寝転んで、体を預ける。


 思った以上に、中は広かった。


 重心が深くて、体がすっぽりと地中に埋まってしまうような感覚だった。



 「ちょっと一回起き上がって?」


 「何?」


 「頭にそれ付けるから」



 シリコンというかゴムみたいな素材の、半円型のネット。


 内側に大量のチップが取り付けられている。


 ネットの上部には大量のコードが、クラゲの足のように伸びていた。


 チップとコードは、一つ一つが連結しているみたいだった。


 透明なビニル製の管にコードが束ねられ、頭の後ろにある配管を通って、ポッドの奥側へと繋がっていた。


 遠目からだと見えなかったが、チップの表面には吸盤のような小さな先端が浮き出ており、その周りにはスポンジが覆われていた。


 ネットを電気的に繋げているケーブルの根本には、謎の液体と、針のようなものが…


 素人目で見ても、頭に取り付けていいものじゃないのがわかった。


 …なんだ、この、緑の液体は…



 

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート