「あの頃が懐かしいわ」
何感傷に浸ってんだ?
勝手に自分の世界に入るなよ。
困惑してる奴が目の前にいるんだ。
置いてけぼりにしてんじゃねーぞ。
「あんたは弱虫やったよな?すーぐ泣くし」
…ほう。
生憎だが、全く共感できない。
嘘ついてないよな?
本当に真面目に言ってるか?
「冗談でしたー」とかナシだぞ。
「失礼な奴やな」
「失礼なのはお前の方やろ」
「私のどこが失礼やねん」
「全部」
「はい殴る」
すぐ殴るとか言う…
この暴力女が
「ほんならメンバーのこと言えるんか?」
「言えるで?」
「2番セカンドは誰やった?」
「赤井くん。赤井マサト」
「…お、おう」
まさっちのこと知ってんのかよ…
当時のメンバーのことを次々に言い当てる。
それにつれてますますわからなくなってしまった。
女が「誰」なのか。
…何者なのか
「大阪に住んどんやろ?」
「そうやけど?」
「いつまで住んどったん?ここに」
「10年や。前に言うたやろ」
「10年って…。幼稚園児やないか」
「…ああもう、わからんやっちゃなぁ」
女が言うには、俺たちは中学も高校も同じだったそうだ。
子供の頃からの付き合いで、何をするのも一緒だった。
“3バカトリオ“
周囲からはそう呼ばれていたそうだ。
バカは俺ひとりだったそうだが。
「おい」
「本当のことを言ったまでや」
「バカはお前やろ」
「私は天才や」
「天才は自分のこと天才って言わんで?」
「普通の天才はな?でも私の場合は、一周回って隠しきれてないだけ」
はいはい。
俺たちは3人で、よくキャッチボールしてたみたいだった。
俺と千冬が、よくしてたみたいに。
「キャッチボールゥ?」
「信じられんか?」
「そりゃ…まあ」
「あんたは野球を続けんかったけどな?」
「…え?なんで??」
「さあ」
高校の話じゃなくて?
…いや、別に今も野球を辞めたわけじゃないが、昔みたいにバリバリやってるわけじゃない。
そういうニュアンスじゃなくて…?
やめた?
野球を…?
「興味なくなったんやろ」
「…いや、それは無い」
「なんで?」
…なんでって、そりゃ…
もし、本当に野球を辞めたって言うんなら、その理由は一つしかない。
最近もそうだ。
高校に入って、時々考えてた。
別に野球なんて続けなくてもいいか、って。
真剣に。
だって、千冬がいない野球なんて、マグロの無い寿司屋みたいなもんだ。
…いや、例えが悪いな…
なんかもっとこう、なくちゃならないものなんだ。
映画館にあるポップコーンみたいに。
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