俺は無我夢中でバットを構えた。
なにがなんだかわからないという感じで。
マウンドの上で躍動するフォームは、明らかに非日常的だ。
スラッと伸びた足。
ほんのり日に焼けた肌。
しっかり手入れが行き届いてそうな綺麗な髪を揺らし、女は大きく振りかぶる。
その構えは、俺の好きな野球選手に似ていた。
日本で最速の球を投げるピッチャー。
子供の頃からの憧れだった。
似ても似つかないその偉大な選手と、華奢な体躯の女子高生がダブって見えるなんてありえない。
混乱したんだ。
これは現実か…?
そう、思い。
ビュッ…!
伸び切った手の先で、指が弾ける。
また、ストレート。
そう思ったのも束の間だ。
追いつけないと思った。
始動したバットの根本から、“間に合わない”という感覚が頭をよぎった。
それほどの速い直線が、ホームプレートの真上を通過していったからだ。
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