雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第312話

公開日時: 2023年9月3日(日) 21:03
文字数:960


 「どういうことや、それ!?」


 「あんたはずっと、この世界で起きたことを考え続けてきたと思う。あの日の出来事が無くなれば、どんなに良かったかって」


 「そうやけど…!」


 「でも、もしあの日の出来事が、“元々この世界に存在していなかった”としたら?」



 …そんなこと言われても、わかんねー…



 元々存在してなかった…?



 事故に遭ってなかった…ってこと?



 どういうことなんだ…?



 「キーちゃんはあんたに会いに行こうとしとる。2人が結婚してた「未来」に、たどり着こうとして——」


 「待て待て!」


 「ん?」


 「一旦話を戻してくれん?事故が無かったってどういうことや!?」


 「そのままの意味やが」


 「“そのまま”って意味わからんやろ…。もっとわかりやすく言え!」



 全然追いつけない。


 さも当たり前のように言うが、言ってることが全然わからない。



 タイムマシン。


 未来。


 結婚。



 一つ一つのワードが、頭の中で弾ける。


 フライパンの上で出来上がるポップコーンみたいに、縦横無尽に飛び跳ねてやがる…



 ずっと感じてきてたことだ。


 昔から。


 あの事故が無かったらって、いつも思ってた。


 海を見ながら。


 学校に行く、——道すがら。

 


 なのに、「事故が無かった」って…



 「説明せぇ」


 「今説明しとるやんけ」


 「…わかりにくいんや!色々と」


 「それはあんたが馬鹿だからやろ?」


 「お前の説明が下手くそやからや!」


 「…はぁ。苦労するわほんと」



 ため息つかれても困るんだけど?


 俺からしたら、杖で空が飛べますって言われてるようなもんだ。


 ドラゴンがこの世界に存在してるって言われて、お前は納得できるか?


 サンタクロースが実在するって、トナカイが空を飛べるって、——言われたら?



 「うーんってなる」


 「やろ?今の俺の状況。それ」


 「そんな難しく考えんでも…」


 「考えるやろ!?言ってること相当ぶっ飛んでるって理解してる!?」



 …どうやら、理解してないっぽい。


 俺の方に原因があるみたいに、ため息をつきながら腕を組む。


 将来、お前は絶対に指導者にはならない方がいいと思う。


 授業中に呪文のような言葉を言い始めて、生徒を置き去りにする数Aの吉田。


 あのタイプだなって思う。


 聞く側に寄り添えっていっつも思うんだよね。


 健太はそのせいで頭のネジが飛んで、ねりけし用の消しゴムで遊び始めるんだ。


 ノートを取ってる俺の邪魔をしてきて、授業に集中できないこともしばしば…



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