「どういうことや、それ!?」
「あんたはずっと、この世界で起きたことを考え続けてきたと思う。あの日の出来事が無くなれば、どんなに良かったかって」
「そうやけど…!」
「でも、もしあの日の出来事が、“元々この世界に存在していなかった”としたら?」
…そんなこと言われても、わかんねー…
元々存在してなかった…?
事故に遭ってなかった…ってこと?
どういうことなんだ…?
「キーちゃんはあんたに会いに行こうとしとる。2人が結婚してた「未来」に、たどり着こうとして——」
「待て待て!」
「ん?」
「一旦話を戻してくれん?事故が無かったってどういうことや!?」
「そのままの意味やが」
「“そのまま”って意味わからんやろ…。もっとわかりやすく言え!」
全然追いつけない。
さも当たり前のように言うが、言ってることが全然わからない。
タイムマシン。
未来。
結婚。
一つ一つのワードが、頭の中で弾ける。
フライパンの上で出来上がるポップコーンみたいに、縦横無尽に飛び跳ねてやがる…
ずっと感じてきてたことだ。
昔から。
あの事故が無かったらって、いつも思ってた。
海を見ながら。
学校に行く、——道すがら。
なのに、「事故が無かった」って…
「説明せぇ」
「今説明しとるやんけ」
「…わかりにくいんや!色々と」
「それはあんたが馬鹿だからやろ?」
「お前の説明が下手くそやからや!」
「…はぁ。苦労するわほんと」
ため息つかれても困るんだけど?
俺からしたら、杖で空が飛べますって言われてるようなもんだ。
ドラゴンがこの世界に存在してるって言われて、お前は納得できるか?
サンタクロースが実在するって、トナカイが空を飛べるって、——言われたら?
「うーんってなる」
「やろ?今の俺の状況。それ」
「そんな難しく考えんでも…」
「考えるやろ!?言ってること相当ぶっ飛んでるって理解してる!?」
…どうやら、理解してないっぽい。
俺の方に原因があるみたいに、ため息をつきながら腕を組む。
将来、お前は絶対に指導者にはならない方がいいと思う。
授業中に呪文のような言葉を言い始めて、生徒を置き去りにする数Aの吉田。
あのタイプだなって思う。
聞く側に寄り添えっていっつも思うんだよね。
健太はそのせいで頭のネジが飛んで、ねりけし用の消しゴムで遊び始めるんだ。
ノートを取ってる俺の邪魔をしてきて、授業に集中できないこともしばしば…
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