雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第230話

公開日時: 2023年6月15日(木) 19:24
文字数:1,200


 何かを始めようと思ったんだ。


 じっとなんてしてられなかったから。


 真剣に野球をやるつもりはなかった。


 楽しければそれでいいと思ってた。


 どうせ高校生活なんてあっという間なんだ。


 だったらいっそ羽を伸ばして、自由な時間を過ごして…



 アイツが「甲子園」なんて言い出した時は、まじで「!!?」って感じだった。


 そういうのはちゃんと真面目にやってるやつらが言うべきであり、俺らみたいなやつらが扱っていい言葉じゃない。


 俺らの目標はあくまで「公式戦に出る」こと。


 2年目とか3年目にはメンバーを揃えて、地区予選に出場できたらって考えてた。


 あわよくば、公式戦で1勝ができたらいいな…とも。



 「同好会!?」



 一ノ瀬さんはびっくりしてた。


 「同好会みたいなもんだ」って伝えたら。



 「そうやけど?」


 「…いや、うーん??」



 なにか問題でも?


 そんな反応をされるとは思わなかった。


 逆にこっちが驚いてしまった。


 だって、仰け反るなんてことある!?


 そりゃまあ同好会って言ったら珍しいかもしんないけどさ。


 俺らも別にテキトーにそう言ってるだけで、深い意味はない。


 あくまで「そんな感じ」ってだけで。

 

 それとも、…なんかまずいことでも言った?


 なんでそんなに複雑な顔してんだ?



 「プロ野球選手になるんやろ?」


 「………………は?」



 プロ野球選手?


 …に、なるって?



 「誰が?!」


 「亮平君」



 …いやいや。


 …無い無い。



 「でもいっつも言っとるやん。世界一のバッターになるって」



 世界、一…?


 …えーっと



 「世界一のバッター!?」


 「う、うん」


 

 よくそんな恥ずかしいことが言えるな。


 しかもバッターって…


 なんかの間違いじゃない??


 発想が稚拙というか、具体性がないというか…


 そう簡単になれるもんじゃないだろ、そんなもん。


 プロ野球選手だって似たようなもんだ。


 いや、「世界一」の方がだいぶぶっ飛んでるか…


 なんにしても、発想がバカすぎる。



 「そんなん思ったことないわ」


 「嘘やろ!?」



 …えええ


 一ノ瀬さん的にどうなんだよそれは。


 “大丈夫かコイツ”ってならない??


 高校生にもなってそんな恥ずかしいこと言えるやつ、中々いないと思うぞ。


 そりゃ才能があって、ちゃんと努力してるんだったらまだしも。



 「私はカッコいいと思うけど」


 「まじ…?」


 「亮平君は努力しとるし、何より才能あるやん?」



 …俺が?



 いやいやいや、無い無い無い。


 野球は好きだよ?


 昔は努力もしてた。


 だけどそんな…



 「一年で4番バッター。そんなん普通やったらできんことやし」


 「待て待て。…4番?俺が??」


 「そうやで?」



 まじかよ。


 一年でレギュラーで、しかも4番!?


 衝撃の事実を知ってしまった。


 まさか、こっちの世界ではそんなことになってるとは。


 俺そんなにバッティングうまくないんだけど。


 嫌いじゃないよ?


 けど4番を任されるような器じゃない。


 4番っつったら長打力を任されるポジションだ。


 長打力だけじゃなくて確実生も。


 チャンスにも強くなくちゃいけない。


 そんな大事なポジションを、俺が?


読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート