雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第276話

公開日時: 2023年7月31日(月) 00:13
文字数:710



 ——星



 そうだ。


 空に浮かんでいた2つの月は、一体どこに…?



 電車の窓際から外を見る。


 月は1つだった。


 空の流れは穏やかで、街の明かりが、六甲山の麓まで続いてる。



 世界が揺れていた。


 立ってるのもやっとなくらい、強く。


 地震にしては激しかった。


 街の全部が持ち上げられるかのような振動が、地面の底からやってきてた。


 高層マンションも、駅前のビルも、何もかも揺れてた。


 周りの風景が、ゆっくり溶けて崩れていくような軋みが、どこまでも続いて——



 世界が止まった矢先だった。


 すれ違う人の足が止まり、通り過ぎる風の膨らみが、丸み帯びた放物線のまま立ち止まる。


 空気の流れが入り乱れるように途切れ、錆びた鉄の匂いを含んだフェンス越しの大都会が、瞼を閉じる前に静止した。

 

 ビンに蓋をしたようにしんと閉じる、音の“振動”。


 微動だにしない街路樹。


 予備動作もないままに、ただ、息を止めたような一瞬が、ひらひらと木の葉が落ちる間際の曲線を追いかけていた。



 光の”色”が消えた。



 ——それだけじゃない。


 まっすぐ降りしきる日差しの向こうで、空はもう、動いていなかった。


 道路の上の車も、雲の下の飛行機も。

 


 弾けるような地面の揺れは、その“後”に起こったんだ。


 時計の針を止めたまま、立ち止まった街とその影の“間”をすり抜けていくように、凄まじい轟音を立てて。



 巨大な暗闇が、世界の端から向かってきてた。


 何もかもが、跡形もなく崩れていこうとしてた。



 ビルも、アパートも、——地面でさえ。



 コンクリートは粉よりも細かい粒子に変換され、あらゆる物質は、「形」の外側へと逸れていく。


 波と点と、全てが溶け合ったかのような光景が、見渡す限りに続いてた。


 津波が、押し寄せてきたんだ。


 地平線の彼方から。

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