——星
そうだ。
空に浮かんでいた2つの月は、一体どこに…?
電車の窓際から外を見る。
月は1つだった。
空の流れは穏やかで、街の明かりが、六甲山の麓まで続いてる。
世界が揺れていた。
立ってるのもやっとなくらい、強く。
地震にしては激しかった。
街の全部が持ち上げられるかのような振動が、地面の底からやってきてた。
高層マンションも、駅前のビルも、何もかも揺れてた。
周りの風景が、ゆっくり溶けて崩れていくような軋みが、どこまでも続いて——
世界が止まった矢先だった。
すれ違う人の足が止まり、通り過ぎる風の膨らみが、丸み帯びた放物線のまま立ち止まる。
空気の流れが入り乱れるように途切れ、錆びた鉄の匂いを含んだフェンス越しの大都会が、瞼を閉じる前に静止した。
ビンに蓋をしたようにしんと閉じる、音の“振動”。
微動だにしない街路樹。
予備動作もないままに、ただ、息を止めたような一瞬が、ひらひらと木の葉が落ちる間際の曲線を追いかけていた。
光の”色”が消えた。
——それだけじゃない。
まっすぐ降りしきる日差しの向こうで、空はもう、動いていなかった。
道路の上の車も、雲の下の飛行機も。
弾けるような地面の揺れは、その“後”に起こったんだ。
時計の針を止めたまま、立ち止まった街とその影の“間”をすり抜けていくように、凄まじい轟音を立てて。
巨大な暗闇が、世界の端から向かってきてた。
何もかもが、跡形もなく崩れていこうとしてた。
ビルも、アパートも、——地面でさえ。
コンクリートは粉よりも細かい粒子に変換され、あらゆる物質は、「形」の外側へと逸れていく。
波と点と、全てが溶け合ったかのような光景が、見渡す限りに続いてた。
津波が、押し寄せてきたんだ。
地平線の彼方から。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!