海沿いの線路まで来て、女は立ち止まった。
遮断機は降りていない。
それにも関わらず、白線の外側で立ち止まる。
「どうせ“言葉”じゃ、あんたには伝わらんやろ」
まっすぐこっちを見てきた。
奇妙なほどに、表情は明るかった。
それでいて落ち着いていた。
渡るんなら渡ろうぜ?
そう思った矢先だ。
———カンカンカンカン
と、踏切の警告音が鳴ったのは。
「…あーあ、モタモタしとるから」
大体どこに行くんだよ。
早く帰らないと雨が降る。
だから急かした。
今日じゃなくても、明日か明後日でも良いじゃないかと思い。
「見てて」
線路の向こうから電車が近づいてくる。
にも関わらず女は、振り向き様に人差し指を立て、“静かに見てろ”とジェスチャーしてきた。
それが何を意図するものかは分からなかった。
鳴り止んだ警告音。
遠方から近づいてくる電車の振動。
俺は耳を澄ませてた。
それは女が立てた人差し指の挙動に、思考が停止する時間があったからだ。
不意に訪れた謎のジェスチャーに、思わず踏みとどまる“距離“があった。
加速する何かが、意識の横を掠めた。
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