あの夏の向こうにいる彼女が、そこにはいた。
俺はこんな写真知らない。
卒アルの中身がガラッと変わってる。
旅行に俺は行かなかったんだ。
千冬が事故に遭って、しばらく家に引きこもってた。
楽しめる気分じゃなかった。
食欲だって湧かないし、夜になっても眠れなかった。
だから行かなかった。
友達には、あとで謝ったっけ。
でも、東大寺の門の前でみんなと一緒にいる俺がいる。
修学旅行先は京都だった。
それから奈良に行って、バスで兵庫まで帰ってきて。
嘘のような話だが、写真が物語ってる。
行ったこともない場所に「自分」がいる。
そんなこと、説明しようと思ってもできない。
ここが、「違う世界」だと信じない限りは。
「7月11日やったな?」
…そう。
その日だ。
千冬が事故に遭ったのは。
「夏休みの間中、私とあんたは野球の練習をしてた。覚えとらんのか??」
覚えてたら、こんなところまで来ないだろ。
夏休みの間は、ずっと病院に通ってた。
千冬が、目を覚ますかと思い。
彼女が書いたという日記をめくっていると、野球のことばかりが書かれていた。
変化球の握り方。
走り込みの量。
理想のフォームへのイメージ。
6年生だったあの頃、俺たちは、夏の向こうに行くことを夢見てた。
史上最強のバッテリーになって、三振の山を築いていく。
そう誓って、がむしゃらにグラウンドに駆け出してた。
グローブと、ボールだけを持って。
それが、漠然とした「夢」だってこともわかってた。
なんで自分が野球をやってんのかも、正直、よくわかんない部分があったし。
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