雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第269話

公開日時: 2023年7月23日(日) 20:34
文字数:923



 ————————————ゴッ…!




 外に放出される力が、地上のもっとも低いところで弾ける。



 “爆風”が、全ての空間を包み込む。



 粉々に砕けた地面と、空中の境目。


 そこに一筋の光が見えた。


 それは雷鳴のように明るく、そして、——疾かった。


 目では捉えきれないほどの速度が、地上と空の境界に駆け走る。


 時間の流れそのものが変わる。


 そんな急激なエネルギーの膨張が、光さえも取り込みながら膨れ上がった。


 ——どこまでも、急速に。




 ドーーーーーーーーーーォォォォォォ……




 瓦解していく音。


 千切れていく世界。


 爆風が皮膚の表面を焼く。


 声を上げる間もなかった。


 痛みもなかった。


 …ただ、体の芯が爛れるような熱さを感じて、息もつけない息苦しさが、肺の中に入り込んできた。



 熱い…!


 苦しい…!



 その意識はずっと深いところに沈み込みながら、それでも、目前の爆発を捉え続けられるほどには、はっきりとした質感を残していた。


 指先の感覚はもう無い。


 毛髪の一本も残らないような“熱”が、神経の壁を越えてやってくる。


 巨大な隕石は、世界の中心で煌めいていた。


 1秒にも満たない一瞬への内側に、その立体的な衝撃波を広げていた。


 そして——



 落下した隕石の中心から、一気に力が伝っていく。


 その方向は無差別だった。


 あらゆる方向に進みながら、全てを薙ぎ払う。


 爆風に押し出され、もう、身動きは取れなかった。


 手足の感覚が無くなる。


 喉が焼け爛れたように、声が出ない。


 息が続くか続かないかの間際だった。


 視界の全部が、——暗闇に包まれたのは……




 

 ………………………………………


 …………………………


 ………………


 ………




 …一体なんだ…?


 …何が起こった?





 落下してくる隕石も、崩れ落ちた街と、……地面も。




 …千冬



 …なあ………千冬……



 ……そこにいるんだろ?



 ……この世界の、この地上のどこかに、まだ……




 …………


 ……



 …わからない



 …何が起こってるのか


 …なにが、起きたのか…





 遠い意識の向こうで、金属の擦れる音がする。



 気がつくとそこは電車の中だった。


 JR阪神線の上りと、須磨高の制服。


 吊り革に手をかけながら、窓の外では流れていく海の景色が見えた。


 揺れる電車と、午後の夕日。


 そのそばで、女は俺の手を握ってた。


 耳の奥に触れる優しい声が、——聞こえて





 「目が覚めた?」

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート