肥大化する振動。
刹那を泳いでいくうねり。
…同時に、何億分もの1秒の中に留まろうとする“一瞬”が、そこにあった。
視界の中、——そのずっと、奥に。
時間?
空間?
——いいや、そんな単純なものじゃなくて、もっと、“手前“にあるもの。
遠ざかろうとする時間が加速しながら、「今」に追いつこうとしている。
そのスピードの中に、指先に触れる何かがあった。
柔らかくも、硬くもない。
実体のような「線」を持っているものじゃない。
少なくとも、——それは。
巨大な揺れの「幅」は大きくても、それがたとえ全てを動かすだけの力があったとしても、それは表面的なものに過ぎなかった。
「時間」に追いつこうとする時計の針は、絶えず滑らかな曲線に沿って動く。
雲の流れも、人や車の流れも。
視界の中心に横切っていくのは、そうした絶え間ない時間の変動に泳がされる、連続的な景色の一端じゃなかった。
「世界」はまだ、“追いついていなかった”。
巨大な揺れに。
目の前に訪れた、濁流のような“変化”に。
ドドドドドドドッ
…なんでだ?
こんなに揺れてるのに、「青」が止まっている。
“止まっている”という表現だけでは足りない、何か。
信号機の後ろに広がる街の骨格が、1ミリの変化も持っていないようにさえ見えた。
街と街を繋ぐ、——あらゆる物質が。
足元が揺らぐ。
視界がブレる。
それでも世界は、“点”の中に留まっている。
果てしない距離の放物線が見えて、ビルの一団が傾き始める。
回転する空。
浮き上がる土。
ゴオオオオオオ
…なんだ?
…この、圧迫感は…?
突然強くなる圧力。
空気が重くなったような、重苦しさ。
街の向こうまで続いている地面のなだらかさは、視界の中に留まり続けていた。
揺れの中に飛び出そうとする波と波の切れ間は、街の形を変えてしまうほどに迫り上がっていた。
アスファルトに浮かぶ影。
——その彼方で、近づいてくる巨大な物体。
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