雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第261話

公開日時: 2023年7月15日(土) 21:00
文字数:772



 肥大化する振動。


 刹那を泳いでいくうねり。



 …同時に、何億分もの1秒の中に留まろうとする“一瞬”が、そこにあった。



 視界の中、——そのずっと、奥に。




 時間?


 空間?



 ——いいや、そんな単純なものじゃなくて、もっと、“手前“にあるもの。


 遠ざかろうとする時間が加速しながら、「今」に追いつこうとしている。


 そのスピードの中に、指先に触れる何かがあった。


 柔らかくも、硬くもない。


 実体のような「線」を持っているものじゃない。


 少なくとも、——それは。



 巨大な揺れの「幅」は大きくても、それがたとえ全てを動かすだけの力があったとしても、それは表面的なものに過ぎなかった。


 「時間」に追いつこうとする時計の針は、絶えず滑らかな曲線に沿って動く。


 雲の流れも、人や車の流れも。


 


 視界の中心に横切っていくのは、そうした絶え間ない時間の変動に泳がされる、連続的な景色の一端じゃなかった。


 


 「世界」はまだ、“追いついていなかった”。


 巨大な揺れに。


 目の前に訪れた、濁流のような“変化”に。




 ドドドドドドドッ


 


 …なんでだ?


 こんなに揺れてるのに、「青」が止まっている。


 “止まっている”という表現だけでは足りない、何か。


 信号機の後ろに広がる街の骨格が、1ミリの変化も持っていないようにさえ見えた。


 街と街を繋ぐ、——あらゆる物質が。




 足元が揺らぐ。


 視界がブレる。


 それでも世界は、“点”の中に留まっている。


 果てしない距離の放物線が見えて、ビルの一団が傾き始める。


 回転する空。


 浮き上がる土。


 


 ゴオオオオオオ




 …なんだ?


 …この、圧迫感は…?



 突然強くなる圧力。


 空気が重くなったような、重苦しさ。


 街の向こうまで続いている地面のなだらかさは、視界の中に留まり続けていた。


 揺れの中に飛び出そうとする波と波の切れ間は、街の形を変えてしまうほどに迫り上がっていた。




 アスファルトに浮かぶ影。

 


 ——その彼方で、近づいてくる巨大な物体。

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