「隕石が落ちる前の世界に、あんたたちはおった」
「それは今もなんちゃうん?」
「なんでそう思うん?」
「だって2083年やろ…?だいぶ先の話やないか」
「私が言いたいんは、未来で落ちるかどうかやない。世界が“変わる前”の話をしとるんや」
ジャイアント•インパクトが起こった日、世界は変わった。
女が言うには、その「日」に世界の「形」が失われたそうだった。
22世紀へと続く「未来」が、——永遠に。
「2083年の向こう側に続く未来が、この世界にはあった。けど、無くなってしまった」
「…なんで?」
「世界が滅ぶっていうんは、人間が開発したある科学装置の発明が、きっかけやった」
「科学装置ぃ!?」
「その装置によって、元々あった世界の形が変わってしまった」
…科学装置と言われてもピンとは来ない。
装置の1つや2つで世界が変わんのか?
想像できないんだけど
「あくまで略称な?詳しいこと言ってもややこしいやろ?」
「十分今もややこしいけど?」
「その“装置”は、例えば、ピッチャーがもう一度投げる機会を与えてしまった」
「さっきの話?」
「そう。ビデオを巻き戻して、ヒットやホームラン打たれた場面まで戻る。バッターを打ち取るまで、何度でもやり直す。そんなことが現実になったら、どう思う?」
「…不公平やな」
「それもそうやけど、そんなことしとったら勝負もクソもないやろ?」
「まあな」
「キーちゃんは知っとった。時間を巻き戻しても、「今」には辿り着けないって」
「たどり着けるやろ」
「なんで?」
「巻き戻そうが巻き戻すまいが、「今」は目の前にあるやろ?」
“今”って、この瞬間のことだよな?
だとしたら訪れてるじゃん。
じゃなきゃおかしくね?
もし違うんだったら、ここはなんだって話だし
「いいや、訪れとらん」
「どゆこと??」
「せやから、もう一度甲子園に行こうって言うとるんや」
「なんで甲子園の話になった?!」
「あの場所に「今」があるから」
「“今”って、「今日」のことやろ?違うん?」
「今日やけど、「今日」やない」
「えぇ…」
「「今日」って言うのは、ピッチャーが振りかぶる前の”時間“のことや。勝負が始まる、“前“の」
「まるで、もう振りかぶっとるみたいな言い草やな」
「甲子園に行けるチャンスは1回だけや。一度きりに勝負の中にしか、「今」を繋げられない。…けど、さっき言った科学装置は、そのルートを壊してしまった。何回でも、やり直すことができるようになった。勝負に負けても、——もう一度」
「…んなアホな」
「私が特殊な力を使えるのも、それが「理由」や」
何回でもやり直せるとか、チートじゃん。
未来で一体何を発明したんだ?
とんでもないもんだってのはわかるが、本当にそんなことが可能なんだろうか?
「…しかし、腑に落ちんわ」
「何が?」
「それでなんで隕石が落ちるとかの話になるん?」
「…あーっと、それは…。…まあようするに、大ピンチ!って話」
「急にハショんなや…」
「あんたが難しい顔するからやろ?」
「そりゃ、まあ…」
難しく考えてるつもりはない。
どっちかっつーと簡単に考えようとしてる。
でも、…無理じゃね?
世界が滅ぶだの滅ばないだの
そりゃその話がガチなら、まじでヤバい。
ヤバいを通り越して一大事だ。
…んー、いや、そんなこと言ってる場合じゃないか?
“ヤバい”
それ以上でもそれ以下でもない気がする。
ぶっちゃけ、想像もできねーって。
だって、「世界が滅ぶ」んだぞ?
上から見ても下から見てもパワーワードすぎる。
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