雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第303話

公開日時: 2023年8月25日(金) 15:40
文字数:1,410


 「隕石が落ちる前の世界に、あんたたちはおった」


 「それは今もなんちゃうん?」


 「なんでそう思うん?」


 「だって2083年やろ…?だいぶ先の話やないか」


 「私が言いたいんは、未来で落ちるかどうかやない。世界が“変わる前”の話をしとるんや」



 ジャイアント•インパクトが起こった日、世界は変わった。


 女が言うには、その「日」に世界の「形」が失われたそうだった。


 22世紀へと続く「未来」が、——永遠に。



 「2083年の向こう側に続く未来が、この世界にはあった。けど、無くなってしまった」


 「…なんで?」


 「世界が滅ぶっていうんは、人間が開発したある科学装置の発明が、きっかけやった」


 「科学装置ぃ!?」


 「その装置によって、元々あった世界の形が変わってしまった」



 …科学装置と言われてもピンとは来ない。


 装置の1つや2つで世界が変わんのか?


 想像できないんだけど



 「あくまで略称な?詳しいこと言ってもややこしいやろ?」


 「十分今もややこしいけど?」


 「その“装置”は、例えば、ピッチャーがもう一度投げる機会を与えてしまった」


 「さっきの話?」


 「そう。ビデオを巻き戻して、ヒットやホームラン打たれた場面まで戻る。バッターを打ち取るまで、何度でもやり直す。そんなことが現実になったら、どう思う?」


 「…不公平やな」


 「それもそうやけど、そんなことしとったら勝負もクソもないやろ?」


 「まあな」


 「キーちゃんは知っとった。時間を巻き戻しても、「今」には辿り着けないって」


 「たどり着けるやろ」


 「なんで?」


 「巻き戻そうが巻き戻すまいが、「今」は目の前にあるやろ?」



 “今”って、この瞬間のことだよな?


 だとしたら訪れてるじゃん。


 じゃなきゃおかしくね?


 もし違うんだったら、ここはなんだって話だし



 「いいや、訪れとらん」


 「どゆこと??」


 「せやから、もう一度甲子園に行こうって言うとるんや」


 「なんで甲子園の話になった?!」


 「あの場所に「今」があるから」


 「“今”って、「今日」のことやろ?違うん?」


 「今日やけど、「今日」やない」


 「えぇ…」


 「「今日」って言うのは、ピッチャーが振りかぶる前の”時間“のことや。勝負が始まる、“前“の」


 「まるで、もう振りかぶっとるみたいな言い草やな」


 「甲子園に行けるチャンスは1回だけや。一度きりに勝負の中にしか、「今」を繋げられない。…けど、さっき言った科学装置は、そのルートを壊してしまった。何回でも、やり直すことができるようになった。勝負に負けても、——もう一度」


 「…んなアホな」


 「私が特殊な力を使えるのも、それが「理由」や」



 何回でもやり直せるとか、チートじゃん。


 未来で一体何を発明したんだ?


 とんでもないもんだってのはわかるが、本当にそんなことが可能なんだろうか?



 「…しかし、腑に落ちんわ」


 「何が?」


 「それでなんで隕石が落ちるとかの話になるん?」


 「…あーっと、それは…。…まあようするに、大ピンチ!って話」

 

 「急にハショんなや…」


 「あんたが難しい顔するからやろ?」


 「そりゃ、まあ…」



 難しく考えてるつもりはない。


 どっちかっつーと簡単に考えようとしてる。


 でも、…無理じゃね?


 世界が滅ぶだの滅ばないだの


 そりゃその話がガチなら、まじでヤバい。


 ヤバいを通り越して一大事だ。


 …んー、いや、そんなこと言ってる場合じゃないか?


 “ヤバい”


 それ以上でもそれ以下でもない気がする。


 ぶっちゃけ、想像もできねーって。


 だって、「世界が滅ぶ」んだぞ?


 上から見ても下から見てもパワーワードすぎる。


 

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート