「大丈夫か!?あんた」
病院にいる千冬は、痩せこけていて、シャワーだって浴びていない。
髪の毛はすっかりやつれて、笑う素振りさえなかった。
生きている感じがしないんだ。
ベットに横たわっている、あの姿からは。
…でも、もし千冬が元気にしていたら、そのことを頭の中で想像して、日常の中に動くアイツの姿を、何度も考えたことがある。
“きっとこんなことを言うんだろう”とか、アイツだったら、“こんな時どうするんだろう”とか。
俺にならわかる気がしたんだ。
ずっと隣にいたから。
アイツの投げる姿を、目標にしてきたから。
一体どんな顔をして、アイツは隣に立っているだろう。
大人になったら、どんな顔をして笑うのかな。
所詮それは「夢」だってわかってた。
永遠に、知ることができないものだって。
だから目の前にいる彼女が、千冬なわけがなかった。
その目が、仕草が、たとえ彼女に似ていたとしても、“千冬”なわけがない。
夜が近づいているのに、目がチカチカする。
理由はわからなかった。
ただ、街が動いているのはわかった。
ビルの影が濃くなって、外灯に点る光の鮮度が、より深くなっていく。
鮮やかな視界の中心で、あどけない顔。
どこかで見たことがある、飾り気のない表情。
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