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ミーンミンミンミンミン
ジジジジジジ…
蝉の声が聞こえる。
学校が終わった後女に連れられ、須磨駅から阪神線の電車に乗った。
どこに行くんだと尋ねたら、“ここじゃないどこか”、そう言うだけだった。
電車の行き交う海のほとりで、夕暮れ時の空の色が、街の向こう側へと続いている。
ホームを抜けた先の線路の色は、いつもよりも少し、赤茶けていた。
レールの揺れる音が聞こえて、「2番線に電車が到着します」のアナウンス。
明石海峡大橋を背に、須磨浦海岸の水際を駆け抜けてくるオレンジ色の機体が、さざ波の湾曲に乗り上げるように近づいてきた。
午後の静けさが段々と加速しながら、それでいて街の喧騒がいっそう近くなる。
光と波がぶつかるその瀬戸際を追いかけながら、ぐうっと、水飛沫が加速した。
街が息を吸っていた。
ガトンゴトンと、駅のホームに通り過ぎる風の気配を、軋ませながら。
女は、“駅は絶好の場所だ”と言っていた。
もちろん意味はわからない。
切符は“三ノ宮行き”だった。
——三ノ宮に何かあるのか?
だけど、その“答え”は、すごく曖昧だった。
「電車に乗ったら、目を閉じて」
目を閉じる?
乗って…から?
これから何が始まるのか、想像もできなかった。
けれど普通じゃないことが起きる。
そんな予感はしてた。
「せーのでジャンプする」
「へ!?」
「あんたは目を瞑っとくだけでいい」
お…おう。
わかった。
電車が着き、開いたドア。
俺たちはその向こうに足を踏み入れた。
そして、女に言われた通り、俺は目を閉じた。
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