「俺からしたら、全然想像できんわ」
「なにが?」
「“ライバル”ってことも、一緒に高校生活を送ってることも」
確かめたくて、一緒に登校した。
何が起こってるのかを知りたかった。
“一緒に学校に行く”
そんな出来事が、隣にあるなんて思えなかった。
アイツの顔を見るたびに思うんだ。
“本当に千冬なのか?”って。
しつこいくらい、何度も。
「俺ってどんなやつ?」
「へ??」
「別人みたいやって言うけど、どこらへんが?」
うーん、と、彼女は首を傾げた。
いまいちわかんないんだよな。
俺は俺だろ?
仮に世界が変わってるとしても、別人なんかじゃない。
…と思う。
確信は持てないが、変わりようがなくない?
同じ人間なんだぞ??
そりゃ着てる制服も違うし、持ってるスマホだって違う。
でもそんなのは微々たるもんだろ。
一ノ瀬さんの目には、どう映ってるんだ?
率直な意見を聞かせて欲しい。
ざっくりでいいから。
「…どうって」
「でも、比べようがないわな…」
「野球少年って感じ?」
「俺が!?」
「うん」
野球…少年。
そこまでのめり込んでるつもりはない。
でも、事実プロ野球選手を目指してるくらいだ。
1年でレギュラーだって言うし、相当やり込んでるんだろうな。
一ノ瀬さんが言うには、毎日バットを振ってるそうだった。
練習でとかじゃなく、部活が終わった後も、雨が降った日にも。
バットを振ることくらい、今の俺にだってある。
アイツらに教えなきゃいけないし、いずれ試合をする日が来るだろうから。
だけど、“世界一“って、…なんなんだ?
どうしてそうなった?
まじでどっから、その発想が湧いて出たんだろうか。
本当になれると思ってんのか?
だとしたら、相当バカだと思うんだが…
「この前ちーちゃん悔しがってたで?亮平に打たれたぁって」
「へぇ」
なんで、”バッター”なんだろうか。
理由が無いだろ。
目指してたのは千冬の姿だ。
何度も言うが。
“千冬に勝つ”とか、その発想がまずわかんねー
甲子園を目指してたって言うんなら、まだわかるんだ。
実際俺もそうだった。
それに、千冬がいるこの世界なら、今もそこに本気で向かおうとしてる自分がいることくらい、容易に想像がつく。
それが、俺たちの目標だったからだ。
キャッチボールを始めたあの時から。
「いっつも野球のことばっかやで?」
「千冬が?」
「いやいや、亮平君がよ?休み時間中もコウ君と野球道具のカタログ見てたりするし、授業中だって、好きなメジャー選手の速報チェックしとるし」
メジャー速報とか、久しく見てないな。
カタログなら、アイツらと一緒によく見てるけど。
プロ野球の試合も、あんま見てない。
時々、ニュースで目にするくらい。
一ノ瀬さんが言う俺の「イメージ」は、俺の想像とだいぶかけ離れてた。
ようするに、思った以上に野球漬けの日々を送ってた。
少なくとも、今の俺と比べれば。
なんなんだろうな。
いや、別に意外とか、そういうふうに思ってるわけじゃない
千冬が隣にいるなら、真剣に野球をやっててもおかしくない。
問題はそこじゃないんだ。
話を聞けば、千冬をぶっ倒すとかぶっ倒さないとか…
俺と千冬は、未来で甲子園に行ったそうだ。
女はそう言ってた。
俺がいる世界とは、別の世界で。
でもわかんねーのは、普段から千冬とよく喧嘩してるってことだ。
教室でもグラウンドでも、ライバル心を燃やしながら、“千冬にだけは負けない”って、そう言ってるそうだ。
千冬も同じく。
その関係性がよくわからない。
闘争心バチバチの言葉を交わして、ポケモンバトルでも交わすかのようなフットワーク。
そんな日常を、想像することはできない。
俺たちはバッテリーだった。
俺は千冬の、単なる練習相手でしかなかったのに。
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