「…ごめん」
どうやら、恥ずかしいところを見せてしまったようだ。
動揺してたのは俺じゃない。
彼女だ。
自分でもびっくりした。
急にだもんな。
人前で泣いたことなんてなかったのに…
「お、おう…」
恥ずかしい気持ちと、嬉しい気持ちと。
他にも色んなものが綯い混ぜになってる。
控え目に言ってぐちゃぐちゃだ。
直視できなかった。
目の前の、彼女を。
「ハグしてもいい?」
「は!!?」
何言ってんだ、俺。
思わず手を伸ばしそうになった。
確かめたかったから。
彼女が「千冬」なら、ちゃんと手に触れられるのかどうか。
「おいおいおいおい!」
彼女は後ずさった。
すごい勢いで。
どうやら、かなり嫌がられてるらしい。
…てか、そんな剣幕になんなよ
もし本当にキミが“彼女”なら、感動の再会なんだぞ
「どこ行くねん」
「ふざけんな!」
なにがふざけんなだ。
こっちは、ずっと心配してたんだ。
もう二度と目を覚まさないかもって、何度思ったかわかってんのか?
ずっと会いたかったんだ。
どんな形でもいいからって、神様にお願いもして…
「…ちょっ、まじでやめ…!」
心臓の音。
涼やかなオレンジの香り。
思い出した。
初めてバッテリーを組んで試合に勝った時、千冬が俺に抱きついてきた。
それこそ、肋骨が折れるかっていうくらい強く。
あの時に感じたほのかに甘い香りが、鼻の奥に掠めた。
…懐かしい
そんな夢のような感覚に使っていたのも束の間、急に視界が暗くなった。
…思いっきり、ビンタされたからだ。
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