「キーちゃんにもう一度会いたいんやろ?」
女はまた、千冬のことを話す。
会いたくないわけがない。
そんなのはいちいち、言葉に出さなくたってわかることだ。
だから俺は頷かなかった。
頷こうが頷くまいが、結果は変わらないと思えたからだ。
「一緒に運命に抗ってみんか?」
そっと、女は手を伸ばした。
軽やかなトーン。
含みのある語感。
何も難しいことはないのかもしれない。
…だけどどうしたって踏み込めない一線が、世界にはある気がした。
——そう、それは「今」もだ。
女が俺に会いにきた理由は、千冬を助けるため。
最初に会った時もそう言ってた。
ただそれが、現実的なことには思えなかった。
…どうしても。
女はそれを見透かしたかのように言ってきた。
「信じられんのはわかるけど」
と、前置きをして。
「私になら、連れていくことができる。運命を変えられるんや。千冬が事故に会わなくて済む世界線。1つの結果が、現在にたどり着くまでの間際に」
…そんな、バカな
結果を変える…?
あの日千冬は海に溺れた。
この「海」でだ。
それを変えることなんてできないし、ずっと覚悟してた。
千冬はもう帰ってこない。
それがどれだけ身近に感じられるか、お前にわかるか?
気のせいなんかじゃないんだ。
アイツはもう帰ってこない。
この前だって言っただろ?
医者がそう言うんだ。
アイツの目を見てそう思ったんだ。
諦めたいわけじゃない。
でも諦めなきゃいけないことが、世の中にはある。
どうしたって、解決できない問題が…
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