「ずっと聞きたかったんやけど…」
思わず、そう呟いてしまう。
意図した言葉じゃなかった。
そんなんじゃないんだ。
本当は。
薄々わかってた。
なんで、彼女が俺に声をかけたのか。
なんで、野球を始めたのか。
そんな難しいことじゃないと思うんだ。
いちいち先のことを気にして、行動するタイプじゃない。
困ったらいつもストレートだった。
サインなんて関係なしに、ただ、マウンドの上で、人差し指を立てるジェスチャーをして。
「聞きたいこと?」
「…いや、その」
病室で、ずっとお前に尋ねてた。
どうやったら、目を覚ましてくれるんだって。
だけど、そんなこと、今のお前に聞いてもしょうがないよな?
なんて言えばいいかわからなかった。
思うように言葉は続かなかった。
どうしようもないくらいに。
それをどう表現していいかもわからない。
なにを、伝えればいいのかも。
坂道の途中で海が見えた。
ガードレールの下に広がる須磨海岸の海原。
見渡す限りの光が、波際を泳ぎながら揺らめいていた。
水面はどこまでも緩やかで、それでいて青い。
真っ青だ。
瞬きもできないくらいに、澄み切った青が広がっている。
空と、雲。
——蝉の声。
騒がしい夏の景色のそばで、なぜか、自転車に乗ってる気がしなかった。
それくらい、何もかもがスローモーションに見えた。
当たり前の景色のはずなんだ。
目の前に広がっている海も、雨の予感さえしない空の色も。
雲が通り過ぎるのをアスファルトの影の下に感じて、ふと、空を見上げた。
手の届かないくらいの背の高い9月が、そこにはあった。
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