「…ほんまに、千冬なんか?」
信じられないが、なぜか、そう言ってしまった。
「さっきからそう言うとるやろ」
それは、そうだ。
しつこいくらいに、そう言ってるのは聞いた。
だけど、そんな簡単に信じられるわけないだろ?
——だって、お前は…
「…お、おい!どしたんや!?」
「…あれ?」
目から何かが込み上げてくる。
…まさか俺、泣いてるのか?
…嘘だろ?
頬に何かが伝って、それで気づいた。
何が何だかわからなかった。
心の中でホッとする気持ちと、浮き足立つような感覚。
それは近くに感じた。
だけど、…だから?
…よくわからない。
心の準備だってまだできてない。
そりゃ目の前に千冬がいるなんて、そんな夢みたいなことが起こってることを、嬉しく思わないわけがない。
嬉しいさ。
もしこれが現実なら、俺の「夢」は叶ったってことになる。
もう一度千冬に会う。
そのために、俺は…
溢れてくる何かを止めることが出来なくなって、しまいに顔が引きつった。
唇が震えて、思うように喋れない。
言いたい言葉がある気がした。
今すぐに。
でも出てこなかった。
それが「言葉」がどうかもわからなかった。
ただ、心の奥底で、いてもたってもいられない気持ちがあった。
いっそ、思いっきり叫んでしまいたいくらいに。
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