雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第308話

公開日時: 2023年8月31日(木) 14:23
文字数:836


 「ここからはよく見えないかもしれんけど、確かにあるんや。あの向こうに」



 頭でもおかしくなったのか…?


 しかめっ面で、彼女のことを見る。


 彼女はただ笑ってた。


 さっきまで、そんな素振りさえなかったのに。



 「もし、キーちゃんを救う方法が1つしかないとしたら、あんたはどうする?」


 「千冬を…救う方法?」


 「そうや。たった1つ、——しかもそれが、100%やなかったとして」


 「…そんなもん決まっとるやろ」


 「…どんなことでもか?」


 「当たり前や!」


 「ほんなら、明日雨が降るとしても?」



 …雨が、降る…?



 それに対する言葉を、すぐには用意できなかった。


 躊躇があったわけじゃない。


 天気のことなんてどうでもいい。


 千冬が助かるなら、なんでも…



 戸惑ったのは、そういうことじゃなかった。


 女の言ってることが、いまいちよくわからなかったからだ。


 明日がどうなろうと知ったこっちゃないが、それでも…



 「あんたをあの世界に連れて行ったのには理由がある」


 「…理由?」


 「空にはたくさんの星がある。昔、感じたことはなかったか?銀河の向こうには、何があるのかって」



 女は時々、ハッとなることを言う。


 心の中を覗き込まれたみたいに、ドキッとすることが。



 「ある…けど」


 「キーちゃんが旅をしとったのは、宇宙の向こうにある世界や。果てのない世界。遥かな時間の向こう」


 「笑える」


 「そうかもな?でも、昔言っとったやろ?銀河の中を船に乗って、飛んでみたい。どこまでも続く世界を、旅してみたい」



 …そういえば、そんなことも言ってた。


 天体望遠鏡を覗き込み、空を見上げて——



 「世界には変えられない“事象”がある。どんなに宇宙が広くても、どんなに世界を旅しても」


 「例えば?」


 「キーちゃんが事故に遭ったのは、ずっと前から決まっとった」


 「ずっと、前…から…?」


 「たった一つの時間が、はるか昔に失われた。「夏」がもう来なくなった。いちばん暑かった、あの季節が」



 寂しそうにそう話す。


 心なしか、悲しんでるようにも見えた。


 小さなため息をつくように。


 そっと、肩を落とすように。

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